- 胃瘻造設患者の摂食嚥下機能管理について
- 異常絞扼反射について
- スペシャルニーズ歯科とは?
- 東京都の心身障害者医療費助成制度(マル障)について
- 認知症を見据えた歯科治療のあり方を考える
- 進行性核上性麻痺について
- デノスマブ(プラリア)について
- ASD(自閉性スペクトラム症)の小児の歯科治療の実際
- 自閉性障害とエクスポージャー法について
- 筋強直性ジストロフィーについて
- 臨床最前線(日本障害者歯科学会)原稿
- 歯科治療が困難な小児の保護者の方へ
- レストレーナーのレスポンド条件付け(古典的条件付け)について
- オペラント条件付けにおける応用行動分析について
- チャージ症候群について
- てんかんについて
- Sotos(ソトス)症候群について
- Rett症候群について
- パニック障害と歯科治療
- 健常者で静脈内鎮静法下の歯科治療を希望される方へ
- 静脈内鎮静法の現状を憂える
- 開業歯科医院における自動麻酔記録ソフトウエア搭載鎮静タワーの臨床的有用性
- 認知症の方への歯科的サポート
- 歯科治療恐怖症と異常絞扼反射
- 健常者の静脈内鎮静法について
- レストレーナーの使用に関して
- 統合失調症について
- ストーマについて
- パーキンソン病と歯科診療
- ノーマライゼーションとバリアフリーについて
- 関節リウマチと歯科治療
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- Down(ダウン)症候群について
- 広汎性発達障害について
- 精神遅滞(MR)について
- プラザキサを服用されている方の抜歯
- 抗血栓療法を受けている方の止血について
- 拡張型心筋症と歯科治療
- 歯科における血液検査
- ワーファリン服用中の抜歯は安全か?
- 妊娠中の歯科治療は、安全か?
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- 痛くない麻酔はできるのか?
- なぜ、痛み止めは胃を荒らすのか?
- 歯周病と糖尿病
- 透析をしているが、抜歯は問題ないか?
進行性核上性麻痺について
進行性核上性麻痺(progressive supranuclea palsy:PSP)は、核上性注視障害、姿勢反射障害による易転側性が目立つパーキンソニズム及び認知症を主症状とする慢性進行性の神経変性疾患です。
初発症状はパーキンソン病に似ていますが、安静時振戦はまれで、歩行時の易転倒性、すくみ足、姿勢反射障害が目立ちます。
進行するにつれて、頸部の後屈と反り返った姿勢、垂直性核上性眼球運動障害(初期には眼球運動の随意的上下方向運動が遅くなり、ついには下方視ができなくなる)、構音障害や嚥下障害、想起障害と思考の緩慢を特徴とする認知症や注意力低下が出現します。
その後、徐々に歩行不能、立位保持不能となって、寝たきりになります。
その他の症候として、進行性の構音障害や嚥下障害、前頭葉性の進行性認知障害(思考の緩慢化、想起障害、意欲低下などを特徴とする。)もみられます。
抗パーキンソン病薬への反応は不良で、一時的に抗うつ薬やドロキシドパで症状が改善することがあるとされています。
非定型例として「パーキンソン病型」、「純粋無動症」、「小脳型」と呼ばれる病型があります。
「パーキンソン病型」では、パーキンソン病に似て、左右差が明らかで初期にはレボドパが中等度有効です。
「純粋無動症型」は、言葉あるいは歩行のすくみを主徴とし、筋強剛や振戦を欠きます。また、眼球運動障害は、末期になるまで出現しないことが多く見られます。
「小脳型」は、初期に小脳性運動失調が明らかに見られます。
ADL低下の進行は速く、我が国の剖検例の検討では車椅子が必要となるのに2~3年、臥床状態になるのに4~5年です。
平均罹病期間は5~9年という報告が多く、パーキンソン病型や純粋無動症型は経過が緩徐で、罹病期間が10年以上であることも少なくありません。死因は肺炎、喀痰による窒息などが多く見られます。
歯科的な問題点
歯科においては、主に嚥下障害に対応することになります。
PSPの患者様は、初期は、誤嚥を繰り返し、熱発が持続的に起こります。患者様も嚥下ができないために食事時間が延長し、経口摂取に疲れ果ててしまい、栄養摂取もままならないため早期に胃瘻造設になることが多くなります。
胃瘻造設後も、胃瘻と併用して経口摂取をQOL向上(生きる楽しみ)のため嚥下訓練、リハビリテーションを継続して行なっています。
胃瘻造設後は、栄養摂取の問題は解決されてきますので、例えば朝、夕食は胃瘻、日中は覚醒度の高い時間帯にお楽しみとして経口摂取を可能な限り続けられるように支援していくことになります。
胃瘻造設は悪者扱いされることが多いですが、経口摂取を支えるための栄養摂取の経路の確保という意味では非常に重要です。栄養摂取がままならないと、食に対する意欲もなくなり、嚥下に絡む筋力、反射低下も起こるため急速に全身状態が悪くなります。
胃瘻造設後も、口腔ケア、嚥下のリハビリテーションを行い、経口摂取を無理のない範囲で続けて行くことが重要だと考えています。
胃瘻造設したから嚥下リハをしなくてもいい、口腔ケアもしなくていいという考えは非常に危険です。そのような対応は嚥下機能や嚥下にかかわる筋力や反射の低下を招き、誤嚥性肺炎のリスクむしろ高くなります。
原田歯科では、PSPの患者様にに関しては
現在の嚥下機能の評価、食形態、姿勢、食環境、食具などを評価していきます。
まず、スクリーニング検査を行いますが、RSST(30秒間に何回空嚥下ができるか?)CT(咳テスト)を行っていきます。(スクリーニング検査の詳細は、治療紹介、口腔ケア、摂食嚥下評価について(VEを使わない簡便なもの)を参照してください。
RSSTは、状況によりかなりばらつきがありますが、CTはせき反射がどの程度残存しているかよく感知できますので、重要な診査項目です。
多少誤嚥を起こしても、せきで喀出できれば大きな問題は起こりませんが、せき反射が低下してくるとほぼ誤嚥に対する防御反射がなくなるため経口摂取は現状では難しいとなります。
実際の経口摂取に関しては、現在経口摂取している食事を持参して頂いてVE下に嚥下検査を行っていきます。
その際にPSPの患者様の場合、後屈や眼球運動障害により下方を見ることが難しくなっていますので、摂取時の頭部サポートや食形態、一口量など試行錯誤しながらご家族とカンファレンスを行っていきます。
検査やそれらのような代償的な対応では、嚥下機能の低下を遅らせることはできないため、例えば、咽頭期の障害に対しては開口訓練やシャキア法など、嚥下のタイミングがわからなくなっている患者様にはうなずき嚥下などお家でできる様々な機能訓練を提案しています。
VEに関しては、原田歯科では1か月に1回程度を目安に行うようにしています。簡単な検査ですので、訪問診療にても問題なく実施可能ですし、かなりの頻度で行っています。
病型により病態の経過が緩徐なパーキンソン病型などはこれらにより経口摂取の期間をかなり延長できる場合があります。