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認知症を見据えた歯科治療のあり方を考える
2012年の65歳以上の認知症の有病率は15%、有病者数は462万人程度と推計されています。
また、軽度認知障害(MCI Mild Congnitive Impairment)は400万人程度と推計されています。
原田歯科も認知症の患者様中心に訪問診療を行っていますが、これだけ超高齢化時代が来て、認知症患者様が増えてくるとそれらを見据えた歯科治療のあり方をいろいろ考えさせられます。
一般的に認知症が重度になると、口腔清掃への意識、関心が低くなります。次第に、歯科治療はもちろん、口腔ケアへの拒否が強くなり口腔清掃状態が非常に悪くなります。
その段階になると、トレーニングされた歯科衛生士でも口腔ケアが困難になりますから、ほぼ歯科の介入がなくなると、口腔内は食渣、歯垢、歯石などが多量に付着し、誤嚥性肺炎のリスクが非常に高くなります。
認知症患者様の訪問歯科診療内容は、口腔ケア、抜歯と義歯の修理、新製の依頼がほとんどです。
口腔ケアを中心に訪問診療を行う歯科の一部では、認知症患者様、抗血小板薬、抗凝固薬服用の患者様の抜歯を原則回避する方針の施設もあり、多数の感染源になる歯の残骸(残根)が残ったままになっている症例が多く見られます。
そうなると口腔内を清潔に保つことが非常に難しく、事情が許す限り当院では抜歯を行っています。
抗血栓薬、抗凝固薬を服用していても抜歯は可能ですし、間違っても休薬などは推奨されません。休薬すると1%程度の方が血栓に起因する障害が起こるとされています。抜歯に関しては、全身状態のリスク評価ができたうえで行うのであれば、基本問題ありません。
原田歯科は、超高齢化社会を見据えて現在65歳以上の方に関しては、以下のような独自の指針のもと診療を行っています。
①咬合の再建は大切だが、将来トラブルを起こすリスクが高い歯は抜歯しておく。口腔ケアが難しい構造を口腔内に作らない。
若い方は、取り外しができる義歯(入れ歯)よりも固定式のブリッジやインプラントのリクエストが多いのですが、それらは実は患者様自身では清掃がむずかしく、定期的な(半年に1度程度)の歯科衛生士によるメンテナンスが必要とされています。
認知症になるとご家族や介護される方が口腔ケアを行いやすいことが、重要視されます。また、そのころには、歯科治療は補完的なことしかできないないことが多く、大掛かりな歯科治療が難しくなっています。
どう見ても、残存歯の多い患者様よりも無歯顎で総義歯を使用されている患者様のほうが口腔内は清潔で誤嚥性肺炎などのリスク要因は少ないと考えています。
まだ少数ですが、軽度認知障害(MCI)と診断された時点で、将来を考え固定式のものから取り外し式の義歯に移行される方がいます。
②歯科インプラント治療に関しては、上部構造は可撤が容易なものを選択し、非吸収性の骨補填材は使用しない。
以前は、私自身も歯科インプラントはよく行っていましたし、非吸収性の骨補填材を多くの症例で当たり前のように使用していました。
最近インプラント周囲炎により骨補填材に感染し、非吸収性であるために繰り返し骨髄炎や腐骨形成を起こしてくる症例を見ることが自院、他院の症例を問わず多くなってきました。
最近、インプラント専門医院なる歯科医院で埋入されたインプラントが脱落し、その後ブロック状の腐骨形成を起こし、腐骨除去を行った症例がありました。
また、骨粗鬆症や悪性腫瘍の骨転移、ステロイド服用者に対する骨症状緩和のために処方されるBP製剤(ビスホスホネート製剤)は口腔内が不潔である顎骨壊死、骨髄炎を発症しやすく、健常時は問題なくとも高齢になりBP製剤などを服用する可能性は高いため、原田歯科では顎骨内に撤去が難しい持続的に感染源になりうる非吸収性の骨補填材などの人工物は留置しないようにしています。
また、MCI(軽度認知障害)と診断された患者様対応として、インプラントの上部構造を外し、コーピング(根面キャップ)にして、その上に義歯を作成する治療を一般的な治療オプションとしています。
この場合、複雑なアタッチメント、磁性アタッチメントなどは使わず簡単に修理可能な保険で作製できる義歯で対応するようにしています。
義歯は、若い方には不人気ですが、高齢者にとってはなくてはならない重要なものです。
実は、最近総義歯のスキルを上げるため、勉強会などに参加して知識のリフレッシュをしています。
総義歯は、咬合や舌、口腔周囲筋などの作用、摂食嚥下機能の知識が絡んできますので興味深く面白く感じます。
③定期的な口腔メンテナンスを繰り返すことで歯科疾患の進行予防、口腔機能の維持を目指す。
原田歯科は障害のある方を患者様層のメインと考えていますが、これらの方は定期的なリコールを繰り返すことで歯科疾患の発症が非常に少なくなっています。
障がいのある方だけに起こることではなく、いわゆる健常者の方にも当てはまります。
これは、メンテナンス自体の効果だけでなく、口腔内に対すす関心や意識が高く維持されること、定期的に診察を受けることでリスク要因が把握でき、それを患者様にフィードバックすることで日常の歯磨きや食習慣が改善されていることによることが大きいと思われます。
われわれ人間の体は、車などと違って部品交換が難しいものです。使い捨てもできません。神様から与えられたものを大切に最期まで全うできるように大切に扱っていきたいと思います。