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異常絞扼反射について
異常絞扼反射とは、歯科治療、歯みがき等の時に器具が口腔内に入ると嘔気(吐き気)発生する反射のことです。
原田歯科では、最重度、重度の異常絞扼反射の患者さんの治療を行っています。
いわゆる健常者で鎮静や全身麻酔が必要になる患者さんの1/3程度は異常絞扼反射の患者さんです。
通常は、嘔吐を伴わない反射とされていますが、歯科の治療台に座るだけで嘔吐してしまった患者さんもいました。
診療室や待合室に入る時点だけで、反射が出てしまう方もいますし、歯科だけではなく美容院の椅子に座ると吐き気が出てしまい、仕方なく自宅でご自分で髪を切っている方もいます。
意識下では、口腔内の診察もできません。
そのような方が、重度の異常絞扼反射の患者となります。
一方で、歯科治療で歯型を取るときだけ、意識下ではできないといった軽度の患者さんもいらっしゃいます。
異常絞扼反射の患者様は、喫煙者や過去の歯科治療に原因がある方が多い傾向はありますが、突如として反射が出てくる方もいらっしゃいます。
脳内の疾患が原因ということもほぼなく、おそらく何らかの原因で、脳内の反射をつかさどる受容体の閾値が異常にに低下している(非常に過敏になっている)のではないかと考えています。
重度の異常絞扼反射の患者様の鎮静は、多くの場合、深鎮静という全身麻酔に近い深さの鎮静が必要になります。
異常絞扼反射の患者様の場合は、中途半端に深い麻酔は誤嚥性肺炎などのリスクを高めるため大変危険です。
麻酔の知識がある方ですとお分かりになると思いますが、重度の異常絞扼反射の患者様は
導入時、ドルミカム7mg+プロポフォール60㎎ボーラス、維持量プロポフォール12mg/kg/h、反応を見てプロポフォール総量200mg超えるころにようやく治療ができるような感じです。
ちなみに、普通の方は、ドルミカム2mg+プロポフォール20mgボーラス、維持量プロポフォール2mg/kg/h程度で、いわゆる鎮静された状態で歯科治療が可能です。
鎮静状態もBISでモニターしていますが、重度の方はBIS値が40以下になってもプロポフォールの総量が少ないと反射が出てしまい治療になりません。
BIS値というのは、100が覚醒、60以下だと意識がない状態とされています。
この状態は、筋弛緩薬と麻薬を使えばすぐにでも挿管して普通に全身麻酔ができる状態です。
麻酔薬の脳内濃度も自動麻酔記録から理論値がわかりますので、BIS値、プロポフォール総量、維持量等と絡めて適切な麻酔深度を保つようにしています。
最近診療させていただいた患者様の場合は、至適鎮静度の治療域が非常に狭い方がいて少しでもover dose なると自発呼吸が消失してしまい、人工呼吸を行いながら至適鎮静度まで戻るのを待つようなこともありました。
ところが、これだけのプロポフォール、ドルミカムを投与されても、2~3割の方は投与終了して即座に会話が普通にできる程度に覚醒してしまいます。
この傾向は、特に発達障害の患者さんに顕著に見られます。
今回は、異常絞扼反射の患者様の話ですが、上記のような鎮静下での治療が必要な障がいは山ほどあります。
今回このような記事を掲載した意図は、異常絞扼反射の患者様の現状を知らない方に(歯科医師を含めて)その治療の困難さを理解して頂きたいと思ったからです。
当院は、障がいのある方の歯科治療のために、鎮静や全身麻酔を管理法として取り入れていますが、健常者の歯科治療困難な方も受け入れています。
それは、健常者と障害のある方を分け隔てなく受け入れる共生の考えと、健常者であっても歯科治療に大きなバリアを持っている方が多くいらっしゃるからです。
逆に、そのような健常者の方のほうが、経済的な負担の少ない受け入れ先はほとんどありません。
保険診療でこのような治療を行っているとそういった現状を知らない歯科医師、自由診療で鎮静を行っている一部の施設がらみの歯科医師からの嫌がらせなどによく遭遇します。
そういった嫌がらせを受ける都度、残念な気持ちになりますが、今後も皆様のお役に立てるよう診療を続けていきたいと思います。