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歯科治療恐怖症と異常絞扼反射
健常者の歯科受診困難者には大きく
①歯科治療恐怖症(dental phobia、フォビア)
歯科治療に対する恐怖が強すぎて、治療に際し、血圧の過度の上昇、頻脈、過呼吸、脳貧血(VVR 血管迷走反射)等をおこしたり、恐怖のあまり体動が激しい、パニック発作を起こしてしまうなどの理由で歯科治療ができない、もしくはかなり困難な患者様のことです。
②異常絞扼反射(gag reflex、ギャグ)
食事などは普通にできますが、歯ブラシやデンタルミラーなどの異物と認識するものを口腔内に入れると強い吐き気のため歯科治療ができない、もしくはかなり困難な患者様のことです。
よく経口の胃内視鏡検査が吐き気で通法で行えない方がいることは、よく知られていますが異常絞扼反射の方はそれが口腔内の浅い部位で起こります。
原田歯科にいらっしゃる方の大半は、意識があると口の中を触れられません。
パノラマ断層写真を撮る際の細いスティックをかむこともできないので、初診時の口腔内診査は遠くから口の中を眺めたり、スティックをかまない状態でパノラマ断層写真やCT撮影を行います。実際の口腔内で行う検査、処置、手術はすべて静脈麻酔中に行います。
フォビアやギャグの方は、決して稀な存在ではありませんが静脈内鎮静法で大半の方は問題なく治療することができます。
特にフォビアの方は痛みがなく、恐怖心が取れれば治療が問題なくできる方が多いようです。そのため、意外と麻酔深度も深くせず意識下でも治療可能な方もいます。
ギャグは、反射なのでフォビアのように意識下で行うことは困難です。ほとんどは、呼名反応のない静脈麻酔で行います。
全体的な傾向として、年齢が若い方のほうが反射が強く、全身麻酔の維持量程度のプロポフォールが必要なケースも少なくありません。
フォビアよりギャグの方のほうが、全体的に深い麻酔深度が必要です。極度のギャグの方は、全身麻酔でないとできない方が稀にいらっしゃいます。
フォビアやギャグの患者様は意外と多く、大半の方はものすごい我慢をして最小限の治療を受けているか、そのまま放置しています。
一番問題なのは、保険診療で鎮静をして歯科治療を行う地域の歯科医院がとても少ないことです。原田歯科も鎮静の患者様はほとんどが市外の方です。八王子でもかなり交通の不便な立地の当院まで来ていただくのは、本当に申し訳ないです。
鎮静で行う治療は、基本的になんら通法のものと変わりはありませんが、歯科麻酔医と歯科衛生士と治療を行う歯科医師による手馴れたチームで行うほうが、高速でかつ効率よく治療が行えます。
大上先生のように深すぎず、浅すぎずという治療に最適な麻酔深度を絶妙にコントロールできる歯科麻酔医と、治療医が注水して歯を切削していてもほとんど咽頭に水を落とさない歯科衛生士のバキュームテクニック(当院では、3系統の吸引を同時に行い、むせ、誤嚥を防いでいます。)などがないと、治療医がいくら頑張っても高速で正確な治療ができません。
誤解を招く言い方かもしれませんが、いくら良い治療をしても常に採算が絶対取れない治療をすることは、プロフェッショナルとしてはあり得ません。そういった治療は、治療を行う側からすれば、趣味や道楽と割り切ればよいのでしょうが、そう言った治療法を頼ってきた患者様に対して最終的には無責任な結果をもたらすと思っています。
私個人としては、静脈内鎮静法は、今でもとても良い手法だと思っています。歯科麻酔医の大上先生にも胃カメラの鎮静のように普及するとよいですね、というような話になります。
しかしながら、患者様にそういった医療サービスを提供できるために、日本歯科麻酔学会のガイドラインに沿ったうえで、治療を行う歯科医院の設備、歯科医師の研修、歯科麻酔医の確保、採算性がクリアできる保険点数など、普及のために越えなければならないハードルはいくつかあると思います。