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歯科治療が困難な小児の保護者の方へ
発達障害(広汎性発達障害、知的障害、注意欠陥多動障害、学習障害など)のため、歯科治療が困難な小児の歯科管理について原田歯科の方針をご説明します。
重度の歯科治療恐怖症のお子様もほぼ同様の対応となります。
これらのお子様は、
- 触覚(口腔内を含めて)や聴覚の過敏性が高く、
- 日常の常同的なもの以外に対して常に恐怖心を感じている
ことが多く見られます。
そのため、意識下で口腔内の処置を行う歯科治療は特にお子様にとって苦手なものとなります。
安全に歯科管理を行う上で、行動療法や、鎮静や全身麻酔などの薬理学的行動調整、体動の調整などのいくつかが必要になりますが、保護者の方のご理解、ご協力、同意が不可欠です。
これらが得られない場合、原則、当施設ではお子様の歯科管理をお引き受けできません。
自閉性障害の小児の場合、極端な偏食、食嗜好、嚥下の困難さが見られる場合があります。そのために、むし歯が多発することがよくあります。
発達障害を伴う小児は、歯科治療が苦手、困難なことが非常に多いので、1歳6か月ぐらいから必ず歯科を受診して、むし歯をつくらないように保護者の方には早期受診をお願いしています。
低年齢から食事指導、口腔衛生管理などの口腔管理が徹底しているとかなりむし歯の発生は抑えられます。
そのような情報が発達障害を持つお子様の保護者の方に周知されていないため、小学生になってむし歯で初めて近医の歯科を受診し、歯科治療の困難さに直面して保護者の方が愕然として当院を受診されることが珍しくありません。
予防、治療を含めた歯科管理の流れ
歯科治療への拒否、非協力が強く、体動が大きいなどの理由で治療が困難な小児の場合、歯科治療を行えるようになるには、いくつかの乗り越えなければならない壁があります。
初めの壁は
- 支持的保護具であるレストレーナーの装着ができる。
- 口腔内の診査をする
- 回転ブラシで歯を清掃する。
- むし歯の進行止めや予防のフッ素を塗る。
この一連の行為は健常児では恐怖や、痛みを感じませんが、4歳程度の発達年齢が必要とされています。
この壁を乗り越えるために、原田歯科では
段階的エクスポージャー法という手法を使います。
その際に、
- レストレーナー
- 開口器
という保護的支持具を使用する場合があります。
※保護的支持具
ベルトや機器、装置を用いて体動を抑制することは、自動車の中で乳幼児に用いられるチャイルドシートになぞられて考えられることができます。障害者歯科で用いられるレストレーナーも安全に身体を保護し、危険をさけるために用いられます。
レストレーナーの一例
※開口器
歯科治療においては、注射針、歯の切削器具など非常に鋭利なもの、誤嚥、吸入すると危険な薬剤を使用します。
開口が保持できないと、予期せぬ事故やそれに起因する傷害が発生することがあります。
開口器は、安全に開口を保持するための補助器具です。
小児用開口器
段階的エクスポージャー法について
歯科治療に恐怖心を持つ人は少なくありません。
原田歯科には歯科治療だけではなく、診療室に入ることが難しい患者様も多くいらしています。
特に、発達障害を持つ小児は、障がいの程度にもよりますが、自分が許容している日常以外のものを恐怖の対象とみてしまう傾向があり、歯科治療に対して大きなバリアがあることがよく見られます。
歯科治療が苦手です。歯科治療というよりも、自分がいつも安心して過ごしている場所と比べ、歯科治療の椅子や、ライト、耳障りな音、尖った器具すべてに対して恐怖を感じています。
はじめは治療椅子に横たわるだけでもパニックを起こしてしまうことがあります。ライトの位置が前回とずれていたり、コップの位置が違うだけでも不安に思い前回と同じ状態に戻さないと治療の椅子に座らない子もいます。
逆に、前回体験して大丈夫だったことは、非常に鮮明に記憶していて次回はすんなりと受け入れてくれることがよくあります。
電車が、レールのないところを走らないのと同じと理解してください。
新しく走れるレールを作ることで、出来ることが増えていきます。
発達障害を持つ小児の行動変容や行動調整は、今まで恐怖心のためにできなかったことを段階的に直面させることで、出来ることを増やしていきます。
その際に、不意の体動や逃走などで事故が起こらないように、支持的保護具のレストレーナーを使用します。
はじめに、レストレーナーに寝ることが怖いことではないとわかってもらわなければ、安全に口腔内を診察することもできませんし、簡単な予防処置もすることができません。
上記全てのことは、一回体験すれば実は全く痛くもないし、思っていたほど怖いことではないことがわかります。
保護者の方の同意の下、レストレーナーに寝る体験をしてもらいます。
はじめは、パニックを起こしたりする子もいますが、パニックを起こしている間は何もせず横で励まします。
次第に、レストレーナーに寝ることが何でもないことがわかると落ち着いてきます。
そのタイミングで、レストレーナーの体験は終わりです。
そういった体験を積ませていくと、怖くないこと、痛くないことはかなり乗り越えられるようになります。
これがエクスポージャー法です。今まで、本当は怖くないのに、怖いと思っていたことを段階的に体験させることで、怖くないということをわかってもらう手法です。
この手法は、いくつかの注意点があります。
- 発達年齢が体験する事柄に対して低すぎる場合。
例えば、口腔内診査を行う場合、2~4歳程度の発達年齢が必要とされますが、その発達年齢に達していない(レディネスがない)お子様は、レストレーナーなしで一連の行為ができるためには、発達年齢が上がるのを待つしかありません。 - パニックを起こしているときに、体験をやめてしまうと「怖かった」という体験として記憶に残ってしまします。
危険がない限り、落ち着くまで励まして待たなければいけません。そのあたりは、我慢が必要です。 - スタッフはもちろん保護者の方が、体験後頑張った患者様をほめてあげることがとても大切です。それが、正の行動の強化子となり、成功体験になります。
体験後、保護者の方が「怖かったね。」「痛かった?」等、負の行動の強化子を与えないようにしていただきます。
発達障害を持つ小児でも、そういった体験を積極的に積むことで出来ることが増えていきます。
この手法は、発達年齢が一定のレベルに達している発達障害を持つ小児に比較的短期間にある程度までの歯科的処置を受け入れてもらえるようになることが多いとされています。
発達年齢が必要とされる歯科治療に対して、明らかに達していない場合は、物理的な体動調整や薬理学的な行動調整(鎮静や全身麻酔)などが必要になってきます。
よくある質問
- レストレーナーをしないと歯科治療はできませんか?
基本的にはじめは、レストレーナーを装着する練習から始めます。
前述の通り、歯科治療が困難な小児はレストレーナーの装着が初めの壁です。
この壁を乗り越えずに、次のステップに行くとその後の歯科管理が非常に難しくなります。
レストレーナーを装着して、口腔内診査、回転ブラシ、フッ素塗布などがスムーズにできる場合は、レストレーナーを引いた状態でネット、バスタオルは巻かずに行います。
レストレーナーは、支持的保護具ですので、体動も少なく、自力で開口できる場合は、必要ありません。
体動が大きく、顔を振ったり、手が出るような場合は、レストレーナーや開口器なしでの治療は危険が伴いますので、保護者の方のレストレーナー使用の同意が取れない場合は、治療は行いません。
むし歯の進行止めや予防処置だけで、歯科管理を行います。
- レストレーナーや開口器を使用するとトラウマになりませんか?
自動車のシートベルトを装着してトラウマになることはないと思います。これは、自動車に乗るときは常に装着するのが習慣になっていますし、保護者の方も安全のために必要だと考えているからです。
レストレーナーや開口器も同様で、歯科医院に来たら常に装着するものであり、安全のために必要だと保護者の方が同意していればトラウマになることはありません。
治療ができない時だけ使用したり、保護者の方が安全のために必要だと考えていない場合に、そのようなことが起こる場合があります。
- 現在、むし歯の進行止めや予防処置だけで歯科管理を行っていますが、処置や抜歯が必要になる場合は、どのように対応するのですか?
緊急性の高い処置、抜歯等が必要な場合は、緊急避難的にレストレーナーや開口器を使用し(保護者の方の同意が必要です)、無痛かつ愛護的に短時間で処置、手術を行います。
年齢が上がり、保護的支持具では体動が抑えきれない場合は、鎮静や全身麻酔下に(保護者の方の同意が必要です)処置、手術を行います。
- 歯科的処置の際、パニックを起こすことがしばしばありますが、問題はありませんか?
段階的エクスポージャー法の場合、新しいことに対する恐怖心を乗り越えるためにあえて乗り越えるべき事象に段階的に直面させる手法です。
当然、パニックを起こすこともありますが、歯科治療に限らず発達のためには不可避なことです。
保護者が、パニックを起こさないように、怖い思いをさせないように先回りをして、世話をしすぎると、いつまでも新しいことができるようになりません。
- 今後、子供が成長して成人になった時、歯科ではどのような対応になるのでしょうか?
当施設では、東京都の重度の知的障害者施設の嘱託医のため、多くの成人の障がい者の診療を行っています。
小児のころから、継続的な歯科管理を行っている場合は、成人になり施設などに入所しても継続的な管理を行っていけば問題ありません。
治療が必要な場合は、体動の調整で大半の治療はおこなえています。
鎮静や、全身麻酔など薬理学的な行動調整が必要な場合は、当施設など鎮静や、全身麻酔が安全に行える施設で治療を行います。
軽度の障がいの方は、地域で通い慣れた歯科医院で歯科管理を継続してください。