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妊娠中の歯科治療は、安全か?
妊娠は、ごく生理的な現象で、病気でも障害でもないのですが、項目の分類上振り分ける項目がなかったので、あえて、障害者診療の中で取り扱います。
妊娠中全期間を通して「麻酔、投薬もする可能性がなく、妊婦に精神的、肉体的に侵襲、ストレスを与えない治療」は全く問題はありません。
ここでは、麻酔、投薬、レントゲン、妊婦特有の治療上の注意点に分けて説明していきたいと思います。
麻酔(ここでは、局所麻酔についてのみ触れます)
歯科で使用する局所麻酔薬で、妊娠時に投与され奇形が発生した報告はありません。
しかしながら、器官形成期である妊娠12週まで(ただし、受精から着床までの1週間は母体からの薬剤の影響を受けないので除く)は、なるべくなら一切の薬剤の投与を避けることが賢明です。
しかし、実際はその時期に、虫歯などでたびたび強い痛みが出てくる妊婦の方もいて、局所麻酔を使って処置をせざるを得ないことがあります。そのような時は、前述の奇形の報告はないと言うことをお話して、必要な処置、手術をしています。
麻酔薬は、当然胎盤を通して、胎児にも移行していますし、現在一番使用頻度の高いリドカインなどは、母体の血中濃度のほぼ50%まで胎児の血中濃度も上がります。ただ、通常使用する程度の量であれば、特に問題は出ないとされています。
また、歯科の局所麻酔薬には、麻酔の作用時間を延長させるため、血管収縮剤が入っていますが、妊娠後期には若干、子宮の収縮、弛緩に影響することがあるので、その時期には、血管収縮剤なしのものを使用しています。
投薬について
歯科でよく出される薬剤は、抗菌薬と鎮痛剤でしょう。抗生剤は、麻酔と同じで、12週以内はなるべくなら投与は避けたいのですが、必要な場合は催奇形性の報告の少ないペニシリン系、セフェム系などのβーラクタム薬が第一選択になります。これらの薬に、母体がアレルギーがないことを確認して投与することになります。それらの薬剤の投与が難しいときは、マクロライド系のものを出します。
鎮痛剤の場合、基本的にはアセトアミノフェンをだします。おそらく、一番安全な薬です。
ピリン系(スルピリン、アンチピリンなど、最近は処方薬ではほとんど使われていないと思います。ちなみに、アスピリンは、ピリン系ではありません。念のため。)のものは、催奇形性の報告があります。
歯科では使用頻度の高く、効きの良いとされる非ステロイド系のもの(ボルタレン、ロキソニン、ポンタール、インダシンなど)は、胎児の動脈管の収縮、羊水の減少などを引き起こす事がありますので、産科の担当医の先生に照会の上で使用するようにしています。
妊婦特有の問題点
妊娠により、お口の中の変化で問題になることは、妊娠性の歯肉炎と、食習慣の変化による虫歯の増加です。
歯肉炎に関しては、エストロゲンをえさとする歯周病菌(Prevotella intermedia)の増加により起こります。また、歯周病のすすんだ妊婦の方では、低体重児、早産の比率が有意に多くなると言う調査結果があります。歯周病菌の子宮への感染が疑われています。
また、虫歯に関しては、特に食事の間隔が短くなる方が多く、そのため虫歯菌の活動する時間の幅が増えることによるものと思われます。これらは、口腔清掃を徹底したり、食事の時間、内容をコントロールすれば、解決できるかと思います。
妊娠性のエプーリス(歯肉の腫瘤)なども、できることがありますが、出産すると小さくなりますので、わざわざ切除することはありません。
余談ですが、よく妊娠すると胎児にカルシウムを持っていかれるので、歯がボロボロになったなどということが、言われるようですが、歯の表面のエナメル質は、代謝されないのでそのようなことはありえません。最近は、お口の衛生に気を配る妊婦さんも多く、そのような方たちは、妊娠中だからといって特にお口のトラブルは増えたりしていないようです。
なるべくなら、妊娠をする前に、虫歯、歯周炎、親知らずの治療は済ませておいたほうがよいと思います。