超音波骨切削を使った安全なインプラント手術
最近インプラント治療をめぐる医療過誤の問題がさまざまなメディアでとりあげらえれ、「インプラントは怖い。」というイメージを持つ方も増えているようです。その一方で、インプラントを必要としている方がいることも確かで、着実に日本におけるインプラントの埋入本数は右肩上がりで増加しています。先日、東京医科歯科大学のインプラント科の勉強会に行ってきたときもそういった話題が取り上げられました。
実際、インプラントで医療事故を起こす歯科医にはある傾向が見られます。(以下は、東京医科歯科大学インプラント科資料)
①問診、歯周病の検査、CT撮影、血液検査など術前に全身状態、口腔内の診査が不十分。②特に歯周炎の治療、禁煙指導などを行わずに、残存歯の治療よりもまず先にインプラント手術を行いたがる。③インプラント治療の利点ばかり述べ、欠点、危険性の話をしない。他の選択肢を提示しない。④費用と治療期間の説明がなく、治療承諾書がない。また問題が生じた場合の対処法、責任の所在があいまい。⑤術後、術中のCT画像などを患者様に見せない。セコンドオピニオンを得ることを渋る。⑥清潔さが感じられない設備。
また、ホームページ上での傾向は、
①インプラントの症例数、埋入本数の誇示。②業績、受講コースの誇示。③どのような症例にも適用できるかの様な説明。④利点のみの説明。⑤料金体系(例 松、竹、梅など)⑥患者の声の掲載
などがあげられていました。私も、学会などでいろいろな問題症例を見てきましたが、治療の経験や技術の問題は当然ありますが、一番の問題は治療を行う歯科医師のキャラクターだと思います。慎重な歯科医は、問題が起こらないように石橋をたたくような治療のすすめ方をするでしょうし、問題症例を多く抱える歯科医は、上記のような傾向があり、それが結果に反映されているのでしょう。
本題に入りますが、最近骨にドリルを使わないインプラント治療が医療安全の考えのもと増えてきています。
いままでは、インプラントを埋入するスペース(インプラントホール)をドリルで削ることで造り、骨の足らない部位は造骨(GBR)する手法がほとんどでしたが、ドリルを使わないインプラント治療では骨の中心に0.7mm程度の下孔を開けその孔を、骨拡大用のスクリューと、超音波の骨切削器具(当院で使用しているものは、商品名バリオサージ)を交互に使いゆっくりと3.7mm上のインプラントホールを形成していきます。当然、拡大された孔の周囲はスクリューよる圧迫で骨密度が高くなり、つぎつぎと拡大していくと骨の開裂が起こりますが、小刻みに骨密度の高い部分をバリオサージで漉き取っていくと、さほど開裂が起こりません。また、インプラントを薄いながらも骨の中により多くの表面積を埋入できるため、骨とインプラントの結合が生理的に得られやすいという利点があります。
このやり方は、一切ドリルを使わないためドリルによる神経損傷や、骨の穿孔による動脈、神経損傷が非常に起こりにくいと思われます。これらは、非常に患者様のQOLに大きな影響を与える医療事故の原因でした。また、骨を削らないため、日本人に多い狭搾した(薄い)骨にも対応できます。以前は、下孔を開けるのにドリルを使用していましたが、当院では下孔も超音波の骨切り器で行うため軟組織の損傷が可及的に少ないと思います。超音波の骨切り器は、硬い組織にしか反応しません。(たとえば、指にダイアモンドコーティングした器具の先端を押し当てても痛みを感じません。)
欠点は、①手術に時間がかかること。②骨質の硬い場合は、さらに時間がかかる。③狭窄した骨の場合、GBRはやはり必要。④骨の性状によってはこの手法ができないこともある。などありますが、安全性が高いことは間違いないと思います。今後は、この手法と従来の手法を組み合わせてより安全で患者様がより楽な手術を行っていきたいと思います。