根尖性歯周炎による激痛
歯科は痛いというイメージがありますが、歯科の疾患の中で、一番痛みが強いのは「根尖性歯周炎の急性発作」と呼ばれるものです。これは、歯の神経のはいっていた穴に神経の残骸などが残り、腐敗を起こして来るものです。膿が歯と顎の骨の境に急激にたまるものを言います。これは本当にいたいと思います。ある女性は、「お産よりもいたい」といい、その痛みがトラウマになってしまう方もいます。
通常は、うずくような痛みが、1、2日続きその後に歯をかみ合わせると飛び上がるほどの痛みが起こります。この時期は、とてもつらくほとんどの方が憔悴しきって来院されます。大半の方は、痛みで睡眠をとることができません。この痛みの強い時期は、4,5日で収まりその後歯肉が腫れてきます。腫れてくると、骨の中での膿の圧力が低くなるため、痛くなくなってきます。歯肉の腫れは、1週間程度でつぶれ、排膿路(フィステル)を形成し、腫れは収束していきます。
フィステルができると、一見治った様に見えますが根尖性歯周炎は、自然治癒することがありませんので、その後も急性発作を繰り返します。ただし、2回目以降は、フィステルが形成されているため、すぐに膿が出てしまいますので、初回ほど痛むことはありません。しかし、何度もこれを繰り返しているとあごの骨の中にのう胞(チステ)という、上皮で囲まれた空洞を形成します。チステは、少しずつ大きくなっていきます。チステになってしまうと、原因となる歯とチステごと外科的に摘出しないと治りません。
歯医者嫌いの方は、チステができても医療にかからない方がいます。そのうち、チステが大きくなると根尖性歯周炎のように急性発作を起こしますが、今度は細菌感染が頭頸部の筋肉の隙間(隙)を伝わり、頭蓋底、頸部、胸部などに感染が広がります。これを蜂窩識炎といいます。最近は、虫歯で命を落とすことはまれですが、抗生物質が普及していないころは、虫歯で蜂窩識炎を起こし、死に至ることはまれではありませんでした。蜂窩識炎にならない場合は、無症状の場合、顎を打撲したときにあごの骨が薄くなっていることで、骨折を起こしたり、チステが下顎の神経(下歯槽神経)を圧迫すると唇のシビレが出てきます。シビレを起こされた患者様は最近遭遇しました。
上顎の場合は、歯性の上顎洞炎を起こしていきます。この場合は、頬部の腫れ、頭重感、長引く頭痛などを起こしていきます。歯由来ののう胞は、増殖力が強いため思わぬことが起こります。上顎洞に埋伏していた歯がのう胞の場合、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨に充満し、顔面の広範な切除になる場合がまれにあります。埋伏していた歯由来ののう胞は、かなりサイズが大きくなることがあるため、レントゲン、CTなどで所見が出た場合、摘出しないと、顎の骨折、切断が必要になることがあることなど充分説明して、外科的な摘出をおすすめしています。しかし、症状がないため、おそらく口腔外科を受診されていない方が現在数名いるようです。(受診すれば、普通は返書が紹介先から来るため、受診しているかはだいたい推測がつきます)大半は、全身麻酔で、入院して手術を行うようになります。
原田歯科では、地域的なこともあるのかよく分かりませんが、口腔ガン、大きなのう胞などによく遭遇します。以前、紹介先の口腔外科の医長先生から、「原田先生のところは、どういうわけか、腫瘍、のう胞系の紹介が多い」などといわれたことがあります。そのようなことがあり、特に初診の患者様の場合、大きな見逃しのないように簡易的な顎全体が分かるレントゲンや、口腔粘膜は良く観察するようにしています。口腔内は、歯、歯周組織、口腔粘膜、舌、上顎洞底部、口腔底など組織がバラエティに富み、治療も虫歯を治したり、歯周炎の治療、いれば治療、インプラント、、外科をしたりなんでもありですし、乳児からターミナル寸前の方まで幅広い年齢層を相手にしているため、狭い領域なのですが、いろんなことが起こります。
人が、一番恐れるものは「死」と「痛み」といわれますが、「痛み」が「死」のハードルを高くしているようにも思えます。そのように考えると、「痛み」こそ「死」に勝る恐怖なのかもしれません。皆さんは、「痛みのない死」と「死のない痛み(激痛に苦しみ続けるが、決して死なない)」どちらを選びますか?