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要支援、要介護者の歯科治療について
健康な若い方の歯科治療と要支援、要介護者の歯科治療では方向性や歯科医師に求められるスキルが大きく違います。
原田歯科では、要支援、要介護者の方の歯科治療において以下のように考えています。
①咬合の再建は大切だが、将来を見据えて口腔清掃が難しい構造を口の中に作らない、残さない。
若いころは、ブリッジやインプラントなど固定式の補綴(ほてつ、歯の欠損を人工のもので置き換えること)が好まれますが、固定式の補綴物は、認知症や脳血管障害などで口腔清掃が困難になった場合、より一層口腔清掃を困難にします。
今まで多くの認知症患者様の診療を行ってきましたが、固定式の補綴が数多くされている方や、残存歯が多い方ほど、口腔清掃が困難で、かつ高齢や薬剤の処方に伴う口腔乾燥も手伝って、終わりのない齲蝕(むし歯)により次々と健常だった時に作られた咬合が壊れていきます。
一般の介護者の方がそういった方の、口腔清掃を行うのはとても難しいと思います。
65歳を超えてころからは、患者様が受け入れられる範囲でブリッジやインプラントなどメンテナンスが難しい補綴は行わないように考えています。
②保存が難しい歯は、抜歯を行うか、抜歯が困難な場合は、根面被覆などを行い口腔清掃を行いやすい環境を作る。
訪問診療で問題なのは、漫然と口腔ケアだけを続けて抜歯が必要な歯を残根のまま放置している歯科医師が多いことです。
訪問診療で抜歯を行わない理由としては、
1)患者さんやその支援者、介護者が抜歯を望まない。
この場合は、保存的に対応するしかありません。
2)抗血小板薬、抗凝固薬などを服用していて止血困難が予想される
この点に関しては、術前に服薬状況を確認し、主治医と対診するなど患者様の全身状態の評価を行い、問題ないと判断されれば愛護的な抜歯操作、緊密は縫合、圧迫、止血シーネ(出血を止めるための軟性シートによるいわゆるマウスピース)を活用することで対応することができると思います。
上記のお薬を服用していることが、訪問診療で抜歯を行えない理由になることはありません。
患者様の協力度が低く、抜歯がどうしても困難な場合も実際はありますから、そのような場合は歯を平たんに削り落とし、根面被覆(レジンなどでむし歯にならないように覆っておくこと)など口腔清掃が容易な形態にします。
3)デノスマブ(プラリア)などを服用していて術後の顎骨壊死のリスクがある(実際は、頻度は非常に低い)
この点に関しては、
・デノスマブ、BP製剤の服用が顎骨障害の原因ではなく、骨粗しょう症自体が顎骨障害の高リスク要因である。
・休薬をすることにより、急激なリバウンドが起こり顎骨障害のリスクを高めている。
・デノスマブ、BP製剤を処方された患者様は、もともと顎骨障害の高リスク群であり、顎骨に対する感染リスクが高いため、最低でも3か月に1度程度の口腔ケアが必要であり、抜歯やインプラント埋入など歯科において日常的に行われる顎骨に侵襲を伴う手術においては術前の抗生剤の処方、感染を起こしにくい手技(例えばなるべく緊密な閉鎖創は避けるなど)を考慮すべきとされています。
様々な検証を鑑み、原田歯科ではデノスマブ、BP製剤の休薬は基本的には行わないという対応としています。
4)咬合の再建は、極力旧義歯の修理で行う。紛失や修理が難しいときは新しい義歯の受け入れが可能か判断したうえで新製とする。受け入れが困難と判断した場合は、義歯は作らない。
義歯は、自転車と似ています。
今まで、自転車を乗ったことがない、もしくは乗るための認知力や体力などがなければ自転車を買い与えられても使うことができません。
はじめて自転車を乗るためには、一生懸命練習をしないといけません。
中等度以上の認知症の患者様は、認知機能の低下や歯科治療への協力度が低いため大半の方が、新しい義歯で食事をとることが難しいのが現状です。
ご家族の方が、歯がないために食事量が落ちていると思われて義歯作成の依頼が来ることがありますが、認知症が進むにつれて新しい義歯を作っても使用することができることはほとんどありません。