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食べる楽しみを失わないためのケア
動物の話で、恐縮ですが、猫を家で飼っていたときの話です。
もうすでに、20歳に届こうかという高齢の猫でしたが、死ぬ数週間前ぐらいから、だんだんとえさが食べれなくなってきました。はじめは、軟らかい食べ物をスプーンなどで、無理やり食べさせていたのですが、そのうちに、口の中に物を入れても、のみこむができないため、衰弱してきました。
動物病院で、点滴などをしてもらいましたが、やはりどんどん衰弱して、がりがりにやせて、結局は死んでしまいました。
食べれなくなったら、死ぬ。これが、人以外の動物にとっては、自然なことです。
人の場合は、口から食べれなくなれば、経管栄養や、胃に穴などを開けて胃ろうなどで、何とか栄養をとろうとしますが、そのことは口から食べる機能を急激に失わせます。
口から食べる機能が失われると、のみこむ機能が急激に衰えてきます。
のみこむ機能が低くなると、たとえものを食べなくとも、自分の唾液、胃液、逆流してきた胃の内容物や痰を胃ではなく、肺のほうに吸引してしまい、肺炎を起こします。
そのような方は、体力がないうえ、終わりのない肺炎の繰り返しで、結局は亡くなってしまいます。
死ぬというと、がんや心疾患、脳血管障害、自殺などといった言葉が、思い浮かぶと思いますが、それはある意味早すぎる死の死因であり、そのリスクの高い時期を無事に生き抜いてきた高齢の方にとっては、誤嚥による肺炎が最も命取りになります。
現代人にとって不幸なのは、食べれなくなってから、死ぬまでの期間が長すぎることです。
これは、死生観によることがあるかもしれません。とりあえず、急性期、回復期において、経管栄養にして、気管切開していくことは、1つの選択肢ですが、自力で、食べれなくなり、まさに死を迎えようとしている方に、同じことをすることは、賛否両論あると思います。
死ぬことは、生まれることと同じで、誰にでも訪れるし、自然にある人生の1つの通過点です。
いつか死ぬと思うから、大切に思えることもあります。
ものを食べることは、最後まで残せる楽しみではないでしょうか?
話がそれましたが、誤嚥による肺炎を防ぐためには、何が必要なのでしょうか?
それは、間違いなく食べる機能を維持させることです。
歩けなくなったら、歩くリハビリをすることと同様、食べるリハビリをすることが、とても大切です。
実際、病院には、ST(言語聴覚士)という専門職がいて、STを中心に、食べるためのリハビリが行われていますが、口腔ケアとともに、認知度が今のところ低いようです。
生活の質を重視する病院、施設などでは、なるべく経管栄養を防ごうという取り組みが始まっています。そして、チームを組んで、口腔ケア、口腔リハビリなどを行い始めています。
わたしたちが、訪問診療にうかがわせていただいている病院も、口腔ケアに理解があり、入院患者様全員に適切な口腔ケアを提供しようということで、口腔ケアアセスメントを作成しています。
口腔ケアの手法を周知するため、講習会を行ないました。
歯科衛生士は、週1回、専門的な口腔ケアを行っています。
口腔ケアは、きちんとやろうとすると当初、病院や施設に大きな負担がかかります。それを承知で、勉強会を開いてほしいと申し出て頂いた病院には敬意を感じています。
口腔ケアが当たり前に行われれば、食事にまつわるトラブルは少なくなるはずなのですが、やり始めのころは、なかなか効果が実感できませんし、頻度が少なすぎると効果が出ません。
歯科以外の他職種の方の理解と協力がなければ、口腔ケアはできません。逆に、それが一番大切なことかもしれません。
原田歯科は、10年以上前から、さまざまな施設に訪問診療をしていましたが、その当時は、どこでも入院されている方の口の中は、食べかすで歯が見えないくらいの状態で、治療する前に、まず口の中を掃除することが、主な仕事になっていました。
あの時代からすると、隔世の感があります。この前、新聞で、ワタミの介護の広告が掲載されていましたが、経管食0を目指すということですから、これが本当なら大したものです。松下さんという有名なSTの方が、顧問をしているそうです。
どんどん時代は、変わっているのだと思います。厚労省も、医療費削減で大変だとは思いますが、口腔ケアを一生懸命やっている施設に、それなりの予算をつけて、人生の終わりになっても、食べる楽しみを失わないようにしてほしいものです。また、肺炎や熱発の減少は、患者様のためだけではなく、必ず医療費の削減をもたらします。
日常的な口腔ケアを一所懸命やっている施設には、きちんとした評価をしていただきたいと思います。現在は、ほとんどボランティアのようなものになっているのですから。