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歯磨きでインフルエンザ予防!
実は、この題名は、新聞の見出しになっていたものを、そのまま拝借してきたものですが、読者に誤解を与える間違った表現が使われています。
正確には、専門的口腔ケアと、日常的な口腔ケアでインフルエンザ予防!だと思います。
つい最近、NHKの番組で、ある老人介護施設で、歯科衛生士のよる定期的な専門的な口腔ケア(1週間に1度)と、日常の正しい歯磨きなどの口腔ケアをすることで、9割程度インフルエンザの発症を抑えられたという内容のものがありました。
実は、この元になっている論文は、以前歯科の一般的な専門誌に載っていたもので、「そういうこともあるのか」程度に記憶していたのですが、意外と歯科以外からの反響が大きかったのことのほうが驚きでした。
現在、インフルエンザの予防としては、
①十分な睡眠、無理をしない(免疫力の向上)
②人の多いところにいかない(感染の機会を減らす)
③うがい、手洗いの励行(ウイルスを体の中に持ち込まない)
④感染の機会が高い場所での、マスクの着用
などがいわれています。
なぜ、口腔内が清潔になると、インフルエンザ予防になるのでしょうか?
専門的な口腔ケアができていると、口腔内の細菌の数が1桁程度減ることがわかっています。
また、口腔内が清潔になることで、唾液が粘膜を潤し、感染予防にもなります。
いつも、口の中を見ていると思うのですが、歯周炎による腫れが起こると、その周囲にウイルス性の口内炎ができたり、抗真菌剤を使うと、歯周病の症状が軽くなったり、ウイルス、細菌、真菌などの微生物は、連携しあいながら、もしくは、お互いに影響しあって存在しているのがわかります。
インフルエンザの場合は、どう口腔内の細菌の影響を受けているのでしょうか?
インフルエンザウイルスの感染と、増殖のしくみを大雑把にみてみましょう。
インフルエンザウイルスには、その表面に、ヘマグルチニン(赤血球凝集素)とノイラミニダーゼという糖タンパクの突起が出ています。
ヘマグルチニン
この突起が、人の細胞の表面にあるシアル酸の糖鎖の部分にくっつくことで、ウイルスが人の細胞に感染することができる。
ヘマグルチニンの構造が、病原性の強弱を決めているとされます。
ノイラミニダーゼ
ウイルスが、人の細胞内に取り込まれ、増殖した後、次の細胞に感染するため、シアル酸との結合を断ち切る
という役割を持っています。
インフルエンザワクチンは、ヘマグルチニンに特異的に結合するために、人の細胞に結合できなくなることで、感染を予防するものです。
タミフルなどの、抗インフルエンザ薬は、ノイラミニダーゼの活性を阻害することで、インフルエンザワクチンが、細胞を渡り歩けなくします。
ヘマグルチニンは、実は、細菌の出すプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)によって、あらかじめ、2股に割れることで、(開裂)、細胞膜をこじ開けます。
そのことにより、インフルエンザウイルスが細胞の中に侵入する事ができます。
このように、、口腔内や、呼吸器に常在しているブドウ球菌など放出するプロテアーゼの存在が、このヘマグルチニンの開裂にかかわっています。
当然、専門的な口腔ケアが行われていると、1桁ぐらいは、細菌の数が減りますので、清潔な口腔内であればあるほど、細菌から出されるプロテアーゼの量が減り、ヘマグルチニンの開裂が起こりにくくなり、インフルエンザの感染予防になるとされています。
ちなみに、弱毒性のインフルエンザは、ヘマグルチニンの構造が、口腔、呼吸器などの細菌由来のプロテアーゼなどだけで開裂が起こるもので、局所的な感染ですむことが多いようです。
ただし、高齢者には、致死的な原因になりえます。
強毒性のものは、全身に存在するいくつかのプロテアーゼで、ヘマグルチニンの開裂が起こるため、感染力が全身に広がりやすく、致死率が高くなります。