歯周炎の治療をすると、どのように口腔内は変化するか?
歯周炎治療の最終的な目標は、わかりやすく言うと、「歯肉が腫れない状態が安定して続き、通常の固さの食品を安心してかむことができる」状態にすることです。
ここには、2つのキーワードがあります。「腫れない」と「かめる」です。
まず、「腫れない」ためには、
①歯周病菌が少なく、口腔内が清潔に保たれている。
②歯周ポケットが浅い(できれば3mm以下)
は、最低条件だと思われます。①に関しては、歯石を、定期的に取り、日ごろの歯みがきを正しく行い、除菌をしていけば、達成できそうです。②に関しては、患者さんと私たち歯科医、衛生士との間にそれを達成することによって得られる、「治る」というイメージに大きなずれがあるように思います。
歯周炎が中程度まですすむと、歯を支えている歯槽骨と呼ばれる骨の吸収が起こってきます。現在の保険で行われている歯周治療では、骨の量を増やすことはできないため、その減った骨の量のボリュームは、回復できません。
また、歯肉に関しては、腫れがひくことにより、今まで腫れていたぶんのボリュームが減ります。つまり、歯を支えている骨や、歯肉のボリュームは、治療がすすみ、それに見合った結果が出てくればくるほど、少なくなってくることになります。
その減った分だけ、歯の露出がすすむため、外見上、歯が長くなったように見えたり、歯と歯の間の隙間が広くなり、食事ごとに食物がそこに入り違和感を訴える方もいらっしゃいます。
隙間が広いことに関しては、
1)食さ(たべかす)が、滞りにくいため、逆に清掃性は高い。
2)歯間ブラシなどの、清掃用具は使いやすくなる。
などの理由により、特に感覚的な問題だけかと思いますが、歯の露出が限度を超えて大きくなると、審美的な問題が出てくることがあります。
そういった場合は、歯を削ったり、かぶせたりして、審美的、機能的に不自然でないように、歯の形を変えてしまうことも少なくありません。
歯周外科的に、骨を作ったり、歯肉の移植をするなどの手法もありますが、患者さんの負担が大きい割には、それに見合うだけの結果(劇的に見た目が変わるという意味で)が出せないことが多いため、今現在はお勧めしていません。
こういったことが、歯周炎が治癒してくると起こることがあります。患者様としては、「治る」という言葉からは、健康だったころの外観により近づくということを、暗黙に期待してこられる方も多いのですが、治癒のペースが速いと急速に、上述のような変化が起こるため、歯間ブラシに使用をやめてしまったりすることがあります。
このような誤解がないように、私たちも充分説明に努めないといけないと思っています。
次に「かめる」についてです。
歯は、主として歯槽骨という骨に深く埋まっていることで、物をかんでもぐらぐらせず、痛みも出ないようになっています。ところが、歯周炎になるとその骨の吸収が起こり、歯を支えている骨の量が減ってきます。
骨の量が、もともとの1/2程度になっても、ほとんどの方はそのことに(かみにくいなどといった感覚)に気がつきませんが、1/3まで減ると、逆にほとんどの方は硬いものがかめなくなってきます。
歯を支えている骨の量が、本来の1/3以下になると、歯周炎の治療をして、歯肉が腫れなくなっても、自立した状態で固いものをかむことは難しいかもしれません。
また、食事も、なるべく歯にストレスをかけないように、極端に固いものは避けていただいたり、細かくして食べていただくことをお願いすることもあります。面倒ですが、そうすることで、歯の寿命はさらに伸ばせます。
そういった状態では、周囲の歯とつなげて、より物をかんだときの動きを少なくするように、固定を行わないと、実際かみにくさが取れない場合があります。固定をすると、かめるものの限界は高くなります。
歯肉の腫れをとることは、骨の量にかかわらずできます(オペまですればという前提で)が、骨の量がなさ過ぎると「腫れは取れても、かめない」状態になってしまうため、結局は抜歯ということになってしまいます。
歯周炎のすすんだ状態でいらっしゃる患者様のほとんどが、「歯がどんどんぐらぐらして、抜けてくる」という言葉は、自覚症状のない1/2から、ほとんどの方が自覚症状の出る1/3までの、時間的な短さを表しています。
症状のないときに、治療を始めれば、かむ機能を高いレベルで残すことができますので、特に異常を感じていなくとも、一年に1度は、かかりつけの歯科医を受診してみてはいかがでしょうか。
歯周炎が進んでしまうと、歯を支えている骨の量により、抜歯か保存(抜かないで残す)か分かれてしまいますし、残せる歯の数、分布により、最終的なお口の中のデザインも変わります。それにより食事の内容、質も変わってきてしまいますので、早めの受診は大切です。