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歯がなくても食べるのは問題ない?
原田歯科では主に重度の認知症の入院患者様の口腔ケアを中心に行っていますが、認知症の方の口腔ケアは患者様の非協力、拒否などが強い場合かなりのテクニックと時間を必要とします。口腔ケアに精通している歯科衛生士でも開口すらできないこともあります。
摂食嚥下障害というと主に咽頭期における嚥下反射の遅延や咳反射の低下、消失などによる嚥下障害が思い浮かびますが、実は食物が咽頭に送り込まれる前段階の口腔期に問題があることが多いことがわかってきています。
当院では、ポータブル内視鏡を麻酔時の気道管理や嚥下内視鏡として使用していますが、高齢者の咽頭の状態と若年者の咽頭の状態を比較すると、若年者の咽頭腔はそれを取り囲む軟組織、筋肉、喉頭蓋、披裂軟骨なども肉厚で、明らかに高齢者のそれと大きく違いがあります。高齢者の咽頭腔はぽっかりと広くなっています。また、喉頭の位置も低く間延びした感じです。
嚥下を行うためには、咽頭腔を周囲の筋肉で絞り込まないといけませんが、舌骨上筋群の力が弱い患者様の場合「ごっくん」しても咽頭腔の絞り込みが甘くなり、咽頭下部の喉頭蓋周辺に食べ物が残ってしまっています。いわゆる食道への送り込み障害です。咳反射の低下した患者様の場合、それを気管に不顕性に吸引して肺炎を起こしてしまいます。
実は、70歳代の入院肺炎患者の75%、90歳代になると95%以上が誤嚥性肺炎で死亡しています。高齢者に多い肺炎の大半は誤嚥性肺炎によるものです。
口腔においては、事情が複雑です。口腔から咽頭に食べ物を送り込むためには、舌や頬粘膜などの口腔周囲筋の働きが必要ですが、口腔の広さは歯の存在や義歯の装着状態により同一人物でも大きな差が出ます。
義歯があれば、口腔からの送り出しに問題がない患者様でも、今まで使用していた義歯を何らかの原因で紛失や外されてしまった場合、食物の咀嚼障害だけでなく、口腔の空きスペースが義歯の容積分増えることで今までよりも大きな舌圧がないと咽頭へ食物を送り込むことができなくなってしまいます。
今まで、義歯があることで弱い舌圧で何とか咽頭へ食塊を送り込まれていた方の場合、いつまで経っても口の中で食塊が送り出せずに口腔に存在し続けることになります。杖で、ようやく歩けていたお年寄りがいきなり杖を取り上げられて歩くことができなくなってしまう状況と似ています。
口腔ケアが難しい患者様の場合は、口腔内の食塊残留やケアがきちんとできないことにより歯周病よりも虫歯で歯が「ポキポキ」折れてきます。高齢の方の場合、すでに歯周病による歯の喪失は時期的にひと段落しています。
高齢による口腔乾燥や口腔ケアの問題で、若年者と違い歯根部に一気にたくさんのカリエスができてきます。歯根部は組織が軟弱なため、虫歯の進行が速く、あたかもきこりが木を切り倒すかのように「ポキポキ」歯が折れてきます。
そのことにより、咀嚼にかかわれる歯数が少なくなり、その残り少ない歯だけで咀嚼を行うために、歯がぐらぐらになってきたり、さらに歯が「ポキポキ」折れてきます。
こうなると入れ歯の場合と同じです。かむこともだんだんできなくなり、歯がなくなった分だけさらに強い舌圧がないと咽頭に食塊を送り込むことができません。
口の中にも喉の奥にも食塊がある状態は、健常者でも誤嚥しやすい状態です。だんだんと食べるのに疲れ果ててきます。食事の時間もだんだん長くなってきます。
口から食べなければ、当然食塊の嚥下を行う機会はありません。嚥下にかかわる筋肉群は廃用性の委縮が始まり、筋肉自体のボリュームもなくなってしまいます。嚥下もだんだんできなくなってきます。
その後、どうなるかはおおよそ想像がつくと思います。
口から食べることは、とても大切なことです。なるべく最期まで口から食べれるために口腔ケアの大切さを歯科が訴えていくしかありません。