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噛めばやせるか?ヒスタミンの話
アメリカのダイエットサプリメントで、ヒスチジンというアミノ酸が主成分のものがあります。ダイエットといえば、食べるのを我慢したり、運動したりというイメージがありますがこのヒスチジンはまったく別の体のメカニズムを利用してやせていこうとするものです。
ヒスチジンは、栄養として体に取り込まれるとヒスタミンという物質に変化します。また、体の中でも合成されています。
ヒスタミンは通常脳内や胃などに多く存在していますが、体の中に存在する受容体に結合することで生理的な活性を起こします。現在4つの受容体が確認されています。
H1受容体 平滑筋、血管、中枢神経などに存在し炎症やアレルギーに関係する。レスタミン(塩酸ジフェンドラミン)は、H1ブロッカーとして有名で、ヒスタミンによるアレルギー反応を抑えますが、同時に中枢神経の抑制を起こし、眠気や鎮静を起こしてしまいます。(酔い止めや眠剤として使われることもあります。)概日リズムにかかわりがあると、言われています。
H2受容体 消化器に存在し、胃酸の分泌を促進する。ガスター(ファモチジン)などの胃薬は、H2ブロッカー(H2受容体にヒスタミンよりも先にくっついてしまうことで、胃酸の分泌を抑える。)です。
H3受容体 中枢神経に存在し、ヒスタミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質を放出する。肥満や覚醒にかかわりがあるのではと考えられています。
H4受容体 造血組織に発現し、おそらく免疫にかかわる作用を発現するのではないかと考えられています。
おそらく、H1、H3受容体によって発現する作用により、食欲を抑えたり、覚醒を促すのではないかと考えられています。これらの受容体を持たないラットを観察すると、昼夜構わず食べ続け、寝込んでしまったそうです。
これとは、まったく別の研究で、咀嚼運動が脳内の視床下部後部の結節乳頭核という部分を刺激し、ヒスタミンの分泌を促すことが分かっています。このヒスタミンが、食欲を抑え、適度な覚醒を促すため、日中の活動量が増えるため、肥満を防ぐのではないかと考えられています。また、ガムをかむことなどで、眠気を覚ます効果があることは以前からよく知られていましたが、これらもヒスタミンのせいなのでしょう。おそらく、脳の中では咀嚼運動量(どれだけ噛んでいるか)をバロメーターに、食べるという行為の打ち切り時を判断している様に思えます。食べる行為は、体の維持にとっては一番大切な行為です。そのときにこそ覚醒していなければいけないために、必然的に噛むことが覚醒を促すことにつながるのでしょう。
このように考えると、噛むという行為は単に食べるための行為ではなく、「食欲をコントロールする生体のバロメーター」でもあり、そのために「覚醒を起こさせるきっかけ」になっているのだと思います。食前にカロリーの低いもの(たとえば野菜など)から食べたり、ゆっくり食べることで、太りにくなるという事実も消化のスピードうんぬんということだけでなくヒスタミンの絡みもあるのかもしれません。
これを逆手に考えれば、肥満防止、認知機能の向上のためには、「噛む」ことをトレーニングの一つと考えてみるもよいかもしれません。