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なぜ誤嚥は起こるか?
誤嚥は、本来は口から食べた食物が、口で咀嚼され、嚥下をされて食道に入り、胃におこりこまれるはずの食塊が、気道に間違って入ってしまうことです。誤嚥のプロセスを理解するためには正常な嚥下のプロセスを理解しておかなければいけません。
摂食嚥下のモデルは、先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期で知られる5期モデルが有名ですが、これは水のような液体を一口ずつのみこむモデルで実際の食物を食べたときのプロセスとは大きく違います。
実際の食物の嚥下は、口で咀嚼をされた食塊が舌によって咽頭に送り込まれ、
①一定量が咽頭にたまると嚥下反射が起こります。
②嚥下反射が起こると同時に舌骨上筋群が収縮して喉頭が持ち上がり、気道に食塊が流れ込まないように喉頭蓋という蓋が倒れこんで気道をふさぐという一連の動きが見られます。
これが正常な嚥下のモデルです。
その後、食塊は開大した食道口に取り込まれ、胃に向かっていきます。
基礎知識 舌骨上筋群とは?
舌骨と主に下顎骨や側頭骨に付着している筋。開口したり、喉頭を上前方に持ち上げる作用がある。
誤嚥を起こす患者様は、VE(嚥下内視鏡検査)で観察すると、よく見られるのは
①の咀嚼された食塊が咽頭にどんどん送り込まれても嚥下の反射がこらず(嚥下反射の減弱)舌骨上筋群が収縮しないため、喉頭蓋が倒れこまず、気道が空きっぱなしになって呼吸とともに気道に吸引されてしまう
②舌骨上筋群の収縮が弱いため、嚥下の反射が保たれていても咽頭にたまった食塊の食道への送り込む力が弱く、食塊が咽頭にかなりの量残留している。そして、それを睡眠時などせき反射の弱い時間帯に気道に吸引されてしまう。
ケースが多いように思います。
あとは、③咀嚼はできるが、嚥下のタイミングがわからないため、ずっと咀嚼のみを続けてしまったり、④脳血管障害などよる片麻痺のため、喉頭の閉鎖が甘くそこから食塊を吸引してしまうことなどもあります。
ただし、気道に吸引されてしまってもせき反射が残っていれば気道に侵入した食塊は咳により吐き出されてきます。むせたりすることはせき反射がまだ残存しており、気道の防御反射が残っています。
そのような患者様は嚥下の反射や舌骨上筋群の働きが弱くなっていて食塊が気道に吸引されることもあるが、せき反射のより誤嚥はしていないということになります。
せき反射が減弱してくると、まさに誤嚥を起こしてしまうことになります。肺に食塊が入るということは非常に恐ろしいことです。微量であっても誤嚥性肺炎を起こしますし、相当量であれは窒息して生命にかかわります。
嚥下反射の減弱、舌骨上筋群の機能低下、せき反射の減弱が同時に起こるようになると一気に誤嚥のリスクは上昇します。
ただ、何もせずにこれらの機能低下を甘んじて受け入れ、経管栄養や胃瘻造設しか道がないわけではありません。
器質的な口腔ケアや機能的な口腔ケア(口腔リハビリテーション)を行うことで、残存する機能をより長く残し、口から食べる楽しみを残そうという取り組みが多くの施設で取り組まれるようになっています。