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認知症の方の口腔ケア
患者様の高齢化に伴い様々な立場の方が、認知症の患者様の口腔ケアを行う機会も増えています。認知症の患者様が口腔ケアに対して協力的であることは少なく、その介護や医療担当の方の大変さは察するにあまりあります。それらの方々から相談されるのは、「どうやって口腔ケアをすればよいのかわからない。」とか「やり方はわかるが、患者様が非協力的なためほとんどケアを行えない。」などが多いように思います。
歯科側から見た認知症患者様の口腔ケアの問題点は、
①患者様の全身、口腔内の状態、摂食、嚥下機能に関する評価などを行われないまま、口腔ケアをなんとなく行っているケースが多いように思えます。患者様が非協力的なため、残存歯が何本あるか、入れ歯を使用しているか不明なままケアを行っている事例も見受けられます。
原田歯科では、口腔ケアの依頼を受けると、原田歯科独自に作成した口腔ケアアセスメント表(以下にアセスメント表の一例を挙げました。)をもとに、患者様ごとに個別の口腔ケア指導を行っています。
このような口腔ケアアセスメント表を作成し、口腔ケア担当者様に提供することで、より質の高い安全なケアを実施することができると思います。
担当者様によるケアが困難な方の場合、歯科衛生士がケアに介入もしくはサポートを行うようにしています。
また歯科治療の必要性なども判断することができます。
口腔ケアアセスメント(作成日 年 月 日)
基本情報 (施設の方 ご記入お願いいたします)
患者様氏名 様 ( 男・女 ) 顔貌写真
明治・大正・昭和 年 月 日 生 ( )才
現病歴
内服薬
特記事項
ADLランク J ・ A ・ B ・ C
口腔内の状況 (歯科記入)
歯牙の状態 1 1
2 2 3 3 4 4 5 5 6 6 7 7 8 8
8 8 7 7 6 6 5 5 4 4 3 3 2 2 1 1
|
上顎義歯 | 下顎義歯 |
口腔内の状況 | ||
残存歯:無印 虫歯:c 残根:c4 動揺歯:p3 コーピング:cp欠損:× インプラント:i 処置歯:○ 要注意歯:□ 連結:□
補綴されている欠損( 義歯:□ ブリッジ:□ □)補綴されていない欠損:□ |
機能評価
全身 | (施設の方 ご記入お願いいたします。) | ||||
日常生活 | 自立 | 要観察 | 部分介助 | 全介助 | |
意思疎通 | 問題なし | 目が悪い | 耳が遠い | 会話不可 | |
運動障害 | 歩行可能 | 車椅子のみ | 寝たきり | 不調( ) | |
脱水 | なし | あり | |||
体重減少 | なし | あり | |||
循環器 | 安定 | 不調( ) | |||
呼吸器 | 安定 | 不調( ) | |||
熱発 | なし | あり | |||
肺炎の既往 | なし | あり | |||
認知障害 | なし | 軽度あり | 重度あり | ||
食事 | (施設の方 ご記入お願いいたします。) | ||||
自立度 | 自立 | 部分介助 | 全介助 | ||
食形態 | 経口摂取 | 経鼻栄養 | 胃ろう | ||
普通食 | 普通食きざみ | 全粥軟食 | 全粥きざみ | ミキサー | |
食事時間 | 30分以内 | 30分以上 | |||
むせ | なし | あり | |||
口腔関係 | (歯科記入) | ||||
清掃状態 | 良好 | 不良 | 著しく不良 | 舌苔あり | 舌苔なし |
口腔乾燥 | なし | 軽度 | 重度 | ||
虫歯 | なし | あり | 残根あり | 残存歯なし | |
歯周病 | なし | 軽度 | 重度 | 残存歯なし | |
口腔内軟組織疾患 | なし | あり | |||
使用中の義歯 | なし | 上顎あり | 下顎あり | ||
義歯の状態 | 良好 | 不調 ( ) | |||
義歯安定剤 | 不使用 | 使用 | |||
うがい | できる | できない | |||
口唇閉鎖 | できる | できない | 流涎 | なし | あり |
発音 | 良好 | 不調 | 不明 | ||
舌 | うごきあり | うごきなし | 肥大 | なし | あり |
咽頭反射 | あり | なし | |||
痰の付着 | なし | あり | |||
開口 | できる | できない | |||
口腔ケア協力度 | 高い | ふつう | 低い |
口腔ケア計画 (歯科記入)
口腔ケアの自立度 | 全介助リクライニング30度頸部前屈 | 自力でケア後仕上げ必要 | 自力でケア後口腔内確認必要 |
吸引器(むせ、誤嚥の可能性のある方) | 必要 | 推奨 | 不要 |
保湿剤(口腔乾燥の強い方) | 必要 | 推奨 | 不要 |
義歯の着脱、清掃(義歯のある方) | 必要あり(上顎・下顎) | 必要なし | |
フェイスマッサージ(口腔周囲の筋の緊張が強く、開口が難しい方) | 必要 | 推奨 | 不要 |
クルリーナブラシ(歯数が少なく、口腔乾燥、舌圧の低下などで残渣が多い方、粘膜の清掃、刺激が必要な方) | 吸引ブラシ必要 | ブラシのみ必要 | 不要 |
指ガード(ケア時、咬んでしまう方) | 必要 | 不要 | |
歯ブラシ(歯の清掃が必要な方) | 吸引ブラシ必要 | 歯ブラシ必要 | 不要 |
歯ブラシの毛の硬さ(腫れが強い方は、より軟らかめ) | 超軟毛 | 軟毛 | 普通 |
舌の清掃(舌苔のある方) | 必要 | 推奨 | 不要 |
歯間ブラシ(歯と歯の間の清掃) | 必要 | 推奨 | 不要 |
義歯安定剤(義歯の安定が悪い方) | 要治療 | 必要 | 不要 |
口腔ケア時の注意事項 |
専門的口腔ケア、歯科治療の必要性 (歯科記入)
専門的口腔ケア(機械的歯面清掃) | 必要 | 推奨 | 不要 |
個別的口腔ケア指導 | 必要 | 推奨 | 不要 |
歯科治療 | |||
虫歯治療 | 必要 | 要観察 | 不要 |
歯周病治療 | 必要 | 要観察 | 不要 |
義歯治療 | 作製必要 | 修理必要 | 不要 |
口腔外科治療 | 必要 | 要観察 | 不要 |
その他、特記事項 |
②口腔ケアを行う際に一番大切に思うことは、ケアするための環境づくりです。ケアを行う方が、きちんと患者様の口腔内を観察するのに必要な照明が確保できているか、ケアを無理な姿勢で行っていないか、吸引がすぐ使用できるか、暴れた時にきちんと体の動きを抑制できるか、開口を安全に維持できるか、などです。
そういった環境づくりに関しては、歯科の手法がきっとお役に立つと思います。
歯科医が、暴れえ狂う非協力的な患者様の口腔内で毎分30万回転もするエアタービンを使い、しかも注水して誤嚥もさせず歯を切削できるのは、テクニックの問題だけでなくそういったことができる環境をつくっているからです。
③歯科側から積極的にアプローチしていくことが少ない。
介護の現場では、まだまだ口腔ケアに歯科がかかわっていないケースが多いように思います。口腔ケアは的確に行えば、口腔内の健康維持だけではなく、誤嚥性肺炎の予防、認知機能の維持、摂食機能を高めることで食べる楽しみを最期まで維持できる可能性があります。
コンビニよりも多いと揶揄される歯科ですが、それだからこそ歯科が必要とされている現場にみずから飛び込んでいくのもよいように思います。
生まれてすぐにおっぱいを飲み、離乳食を食べ、子供のころ、青年期、壮年期、老年期何を食べてきたか、そして最期は何を口にしたか?食べることは、途切れのない人の一生の歴史です。
超高齢化を迎えた日本で、「口から食べる」ことをお手伝いすることが、歯科の大きな仕事の柱になるのは間違いないでしょう。