薬剤関連顎骨壊死(medication-related osteonecrosis of the jaw, MRONJ)に対する予防的な歯科対応について
顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023において、ガイドラインではないもののMRONJに対する歯科の対応がより明確化されてきました。
骨組織は、破骨細胞による骨吸収、骨芽細胞による骨形成(ターンオーバー)がヒトの組織の中でも非常に短いサイクルで行われています。
例えば、脛骨は1年ぐらいでターンオーバーが起こり、骨組織自体が1年で全く新しい骨組織に置き換わっていきますが、下顎骨(オトガイ部)においては6か月、歯槽骨においては3か月とされています。
おそらく感染に対する防御反応として、顎骨においては非常に短いターンオーバーが起こっていると考えられています。他の部位の骨では見られないことです。
破骨細胞は主にエストロゲンが減少するとその機能の抑制が取れ、骨吸収のスピードが亢進してくることがわかっています。そのために、女性においては閉経後に骨粗鬆症が頻発することになります。
参考
• これまで、閉経に伴うエストロゲン欠乏と、それによって誘導される骨粗鬆症(骨粗しょう症)において骨細胞の細胞死が誘導されることが知られていましたが、そのメカニズムはよくわかっていませんでした。
• 骨細胞が発現する骨保護因子Semaphorin3A(セマフォリン・スリー・エー:Sema3A)がエストロゲンによって発現を制御され、そのSema3Aが骨細胞自体に作用して細胞の生存を維持していることが明らかにされました。
BP製剤の作用機序
BP製剤は、破骨細胞をアポトーシス(自死)を誘導して、骨吸収を抑制します。前述したとおり、感染に対する防御として、顎骨のターンオーバーが起こっていることが考えると、感染した骨組織が骨吸収されないことにより、骨髄炎のリスクが上昇し、MRONJを起こすと考えられています。
BP製剤は、服用を開始すると骨組織の薬剤濃度が低減するスピードが非常に遅く3年程度服用を継続していると、飽和状態に達しその状態が長期間続くとされています。休薬してもほとんど影響がありません。
Dmab製剤(プラリア、ランマーク)の作用機序
Dmab製剤は、破骨細胞の新生を阻害することにより、骨吸収を抑制します。
BP製剤との大きな違いは、薬剤の効果が短時間に落ちてしまうことです。例えば、骨粗鬆症に対するプラリアは6が月毎に皮下注射を行いますが、6か月後にはほとんどその効果はなくなっています。
そのため、BP製剤と違い、骨の侵襲や感染のリスクが高い抜歯などは、MRONJの予防に配慮して、プラリア(成人にはデノスマブ(遺伝子組換え)として60mgを6ヵ月に1回、皮下投与)の場合、注射後4,5か月後に行う対応が推奨されます。
ランマークは、癌の骨転移、多発性骨髄腫などにたいして処方されるもので、用量が桁違いです。(成人にはデノスマブ(遺伝子組換え)として120mgを4週間に1回、皮下投与)
骨粗鬆症などに対する低用量BP製剤、Dmab製剤(ARA:骨吸収抑制薬剤)が処方されている場合
① 抜歯は、休薬は必要なく(休薬しても骨内のBP製剤の濃度変わらない)抜歯を行う
② インプラントは推奨しない。義歯、ブリッジなどの代替療法を第1選択とする。
*低用量のARA(骨吸収抑制薬)によるMRONJの発生頻度
最近、MRONJの発症頻度について、282万人のレセプトによるビッグデータ解析の結果が報告されており、骨粗鬆症に対する低用量骨吸収製剤投与ではおおよそ1,000人に1人、悪性腫瘍に対する高用量骨吸収抑制薬投与ではおおよそ50人に1人の発症率と推定されていますが、臨床に携わる歯科医師の実感としては低用量ARAでは、100人に1人程度の発生頻度ではないかと考えています。
癌の骨転移、多発性骨髄腫などに対する高用量ARA製剤が処方されている場合
① 抜歯は基本的に避け、残根上にして保存的に対応する。骨から逸脱してきた状態であれば、抜歯は問題ない。骨に侵襲が大きい抜歯を行う場合は、口腔外科に依頼してほしい。
② インプラントは行わず、義歯、ブリッジなどの代替療法を選択する。
③ 口腔内細菌による感染症予防のため、専門的口腔ケアは必須。