保険で作る入れ歯は、自由診療の入れ歯と何が違うか?
可撤式義歯(入れ歯)は、おおまかにいって ①床(入れ歯が、歯肉と接する部分、金属やプラスティック(レジン)で作られる) ②維持装置(部分入れ歯の場合、入れ歯が外れないように歯につなぎとめる装置、保険の義歯の場合、金属のバネで作られる。) ③人工歯(入れ歯の歯のことです。レジン、硬質レジン、ポーセレンなどで作られます。既製のものを使います。) の、3つの要素で成り立っていますが、それぞれについて説明していきます。 ①床について 少し前までは、薄く、硬くということで、自由診療では金属を薄く鋳造して、見えない部分に使用することで対応していました。 ただ、金属床は、審美的な目で見ると使いたくない材料です。つける本人にとっては、金属色よりは、周囲の組織の色に溶け込める色合いのほうが、はめていてより満足できます。それが、たとえ見えない部位であってもです。 そこで、歯肉の色合いを出せる合成樹脂がいろいろ考えられてきましたが、最近では、フレキサイトに使われている樹脂がよく使われています。ただ、現時点では、修理がチェアーサイドでできないことが多いので、そこが困ります。早く、改良してほしいと思います。 |
②維持装置
保険診療でできる維持装置は、金属のバネのみです。これは、入れ歯にする部位の前後に歯があるような入れ歯(中間欠損)には良いものですが、そうでないものには、義歯が沈み込もうとする方向に歯を引っ張るのでバネのかかる歯に大きな負担がかかり、歯周炎で揺れている歯などにかけてしまうと、すぐ抜けてしまいます。
そのために、義歯の床を広くして沈み込み量を少なくしたり、歯並びを工夫してかんだときに義歯が動きにくいように特に注意しなければいけません。(これは、どんな義歯でも大切なことですが、)
また、見える部分に使うとかなり目立ちますので、細いものを使います。(0.7-0.9mm径の針金)
歯は、縦方向に押される分にはかなりの力に耐えられるのですが、横に揺らされる動きにはとても弱いので、なるべく歯にストレスの少ない維持装置、そして、入れ歯をはめているように思われないような審美性を求めて、、自由診療では、さまざまな維持装置が使われてきました。
義歯自体の動きを極力少なくしようとするコーヌス義歯では、固定式のもののようにバネ自体が、茶筒のふたのように、歯にかぶってしまいます。
また、磁石を使ったものもありますが、あまり強力ではないので、補助的な使い方になってしまいました。
フレキサイトでは、歯肉の色をした床自体が、歯を囲うようにバネの役割を果たしています。
また、アタッチメント義歯というものでは、バネのかわりに、オスとメスの鍵を入れ歯と、ご自分の歯に埋め込んでしまいます。
審美的には、コーヌス、アタッチメント、フレキサイトが自然に見えますが、コーヌスははずすと茶筒のうち蓋に当たる、内冠が見えてしまうので、はずしたときは、自然に見えません。
それと、かなり歯によりかかってくる義歯なので、小ぶりに作れるため装着感は良いのですが、精密にできているため、口の中の状態が変わるとそれなりに修理、改変などが必要です。
③人工歯
材質的には、レジン、硬質レジン、ポーセレンのものがあります。保険のものでは、扱いやすさからレジン歯が良く使われます。
自由診療では、耐久性や変色のことを考えて、長期使用に耐えられるように硬質レジン歯や、ポーセレンが使われますが、今は硬質レジン歯の物がいろいろなバリエーションがあり、審美的にも優れていて多用されています。
保険の義歯は、技術的には、もう何十年前の技術のもので、材質的な問題もありますが、今一番問題なのは、低い診療報酬です。(おおよそ、アメリカの7分の1の額)
そして、この低い診療報酬を維持するために、その後の新しい技術は、何十年も保険制度に入る事はありませんでした。
この診療報酬をもとに技工士さんに支払われる技工代金が決められていくため、1つの義歯を作るのに何時間もかけて製作しても数千円の利益しか出ないと思います。これでは、義歯をベルトコンベアー式に、手間ひまかけずに作るしか、技工所(ラボ)の生きのびる道はありません。
私たち歯科医院の場合は、数千円の赤字です。ほかの診療で出る利益で、カバーしている状態です。
義歯治療は、本来は時間と手間がかかる治療なのですが、このような有様です。
私たちは、赤字だからといって、保険の義歯を作らないわけにはいきません。また、採算が取れないからといって、無理に自由診療の義歯を勧めることもしたくありません。
厚労省は、診療費トータルでみてほしいなどといっていますが、それでは、保険の義歯はどこへいっても厄介者になってしまいます。
やはり社会保険制度は、公的なものなのですから、個々の治療のコストをきちんと調べて、適正な診療報酬を決めてほしいものです。