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てんかんについて
てんかんは、障がい者に多く見られる疾患です。
知的障害や脳性まひの患者様ではおおよそ1/3の有病率があります。
WHOによるてんかんは「種々の原因によってもたらされる慢性の脳の障害であって、大脳ニューロンの過剰な発射に基づく発作(てんかん発作)を反復するものでそれらは種々の臨床症状と検査所見を伴う」と定義されています。
てんかんは、全人口の0.5~0.7%程度の出現率であり、精神障害保健福祉手帳が交付される疾患です。
てんかんは、どの年齢でも出現しますが、小児期から思春期に多く見られ、80%程度は20歳前に発症するとされています。ただし、20歳以降に発症する遅発性てんかん、脳血管障害などに起因するてんかんもあります。
1)症候性てんかんと特発性てんかん
症候性てんかんとは、脳に器質的変化が見られるもので、出生時の脳の障害、脳炎、髄膜炎、脳の外傷、脳腫瘍、脳血管障害などに伴う脳病変がありその後遺症としてあらわれるものです。
一方、特発性てんかんは、明らかな脳病変がなく、おそらく遺伝的な素因によるものと考えられています。
2)難治性てんかん
てんかんの多くは、抗てんかん薬により発作をコントロールできますが、15%程度はそれが難しく難治性てんかんといわれています。
これには
点頭てんかん(West症候群)
点頭てんかんは、乳幼児期に始まり、発作時にはお辞儀をするように頭を前に倒す点頭動作に由来するものです。同時に、両手を前方に伸ばす動作を繰り返す原発性の痙攣です。これを1日になんかも繰り返しますが、生後3年ぐらいで他の方に移行し、80~90%に知的障害を伴います。
Lennox症候群
学童期に多く、強直ー間代発作のほかに強直発作、脱力発作を伴うもので点頭てんかんや脳炎の後遺症として発症することがあります。小児の難治性てんかんでは最も高頻度で、転倒時に顔面や口腔に外傷を負うことが多くあります。
その他
乳児重症ミオクローヌスてんかんなどがあります。
3)反射てんかん
光などの視覚刺激による光過敏症てんかん、驚愕発作によりてんかんが起こることがあります。
4)抗てんかん薬
部分発作に対しては第一選択薬はカルバマゼピン、第二選択薬は単純部分発作にはバルプロ酸、複雑部分発作にはフェニトインが使われます。
全般発作に対しては、第一選択薬はバルプロ酸、第二選択薬は欠神発作にはエトスクシミド、ミオクロニー発作、脱力発作にはクロナゼパム、強直-間代発作にはフェニトインとなっています。
5)抗てんかん薬の副作用
フェニトイン 歯肉増殖、多毛、催奇形性(口唇、口蓋裂)があり、歯肉増殖により口腔清掃が困難な場合は、歯肉切除が必要になることが高頻度に見られます。
エトスクシミド 白血球減少、再生不良性貧血があり、抜歯などは観血的な処置は易感染性を示す時期には避けるようにします。
カルバマゼピン 重症薬疹、白血球減少、再生不良性貧血、催奇形性(神経管閉鎖障がい)。マクロライド系抗生物質を併用すると代謝酵素であるチトクロームP450を競合し、結果、同薬の血中濃度が上昇し、運動失調や意識レベルの低下が見られることがあります。
バルプロ酸 催奇形性(神経管閉鎖障害、心室中隔欠損症)、肥満、肝機能障害、高アンモニア血症。マクロライド系抗生物質、アスピリンを併用するとバルプロ酸の血中濃度が上昇し、意識障害、けいれん、呼吸抑制が見られることがあります。
クロナゼパム 過度の鎮静、不穏、多動、興奮、気道分泌の亢進。
6)てんかんに伴う症状
①精神、神経症状
けいれん発作以外にも、運動失調、感覚障害、自動症、不機嫌、傾眠、頑固な気質、興奮症状を呈することがあります。
②てんかん発作時における転倒、転落などによる外傷が多いため、外傷予防としてヘッドギアやマウスピースは有効です。
7)歯科治療上の配慮
①問診時に今までの発作時の経過、対応を確認しておきます。
発作が起こった場合は、治療を即座に中止し、口腔内の器具、異物などを除去。
側臥位を取り気道閉塞を防いだ状態で様子を見ます。
②特に普段の発作と矛盾がなければ、そのまま経過を見ます。
発作はせいぜい数分で終わることが多く、大発作の場合は1,2時間眠ることが多いため、様子を見ます。
普段、坐剤を使用している場合は、脱衣が容易な服装で来院して頂き、事前に預かった坐剤を早期に挿入します。
③発作が5分以上続いたり、重積してくる場合は、気道確保、酸素吸入を行い、ジアゼパムなどの静注を行います。
④てんかん重積発作の場合には、救急搬送を依頼します。
てんかん重積発作は死亡率も高く(20~40%)、放置したり、対応が後手に回ると不幸な転帰になります。