八王子にある歯医者さん 原田歯科医院

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拡張型心筋症と歯科治療

拡張型心筋症(DCM)は、心筋の変性疾患で主に左心室内腔の拡張と心筋の収縮機能低下のためにうっ血性の心不全を伴います。25-30%が家族性といわれています。心不全の検査は、胸部X腺、心エコー図、血液検査(BNP、ANP、NTーpro BNP)などがありますが、歯科に情報が提供される時点で、診断名は付いていますので、その重症度の判定に適しているのは、心臓から分泌される循環調節ホルモンであるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)だと思います。特にBNPはANPよりも敏感な心不全マーカーであり、心室の収縮障害だけでなく、拡張障害でも上昇することから歯科医が心不全の重症度を定量的に判断できます。また、収縮障害の場合、EF(駆出率、どれだけの割合の血液を心室が拍出できるか、つまり収縮能力の目安。50%以上が正常。)も一つの目安となります。

心不全に対する薬物治療は、①心室が収縮する前にかかる負荷を減らす薬②心室が収縮する後にかかる負荷を減らす薬③心筋の収縮力を強くする薬④その他に分類できます。

①心室が収縮する前にかかる負荷を減らす薬

  利尿剤(ループ利尿剤、K保持性利尿剤など)、血管拡張剤(静脈系を拡張させるニトロ系の薬)、両方の作用を持つ前述のANP(循環調節ホルモンです。)など

②心室が収縮する後にかかる負荷を減らす薬

 血管拡張剤(おもに動脈系を拡張させるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)など)

③心筋の収縮力を強くする薬

 ジギタリス、PDE阻害薬、カテコラミンなどの強心薬

④その他

 αβ遮断薬(カルペジロール)は、心筋のアドレナリン受容体のβ作用、末梢血管(動脈)のα作用を抑えるため、心筋の過剰な収縮、末梢血管の過剰な収縮をを抑えます。ワルファリン(血栓や栓塞症の予防、心室内にうっ血した血を固まりにくくする作用)。アミオダロン(不整脈の予防)などがあります。

治療としては、①薬物療法②心室再同期療法(CRTーD、心室が、効率よく血液を送り出せるようにペーシングさせる両心室ペーシング機能を持つ埋め込み式除細動器)③左心室補助装置(LVAS)(血液ポンプ)④心臓移植などがあります。

歯科治療時に問題になるのは、

①局所麻酔に含まれるエピネフリン(アドレナリン)による負荷の増大または、エピなしの局所麻酔剤の選択は可能か?の2点になります。特に、β遮断薬を服用されている患者様の場合、血管のアドレナリン受容体のα作用を過剰に刺激してしまうことがあり、急激な血圧の上昇が起こることがありますので、注意が必要です。αβ遮断薬(カルペジロール)の場合は、β遮断薬よりは、血圧上昇のリスクは少ないと思われますが、いずれにしても通常の1/8万のエピネフリン含むキシロカインであれば、1.8ml(エピネフリンとしては、22.5μg)程度までもしくは、血管収縮剤なしのメビバカイン(麻酔薬自体に弱い血管収縮効果があります。)などをモニタリングしながら適量を使用していきます。エピなしのものは、長時間の治療や出血うを伴う処置、手術には向きません。

また、麻酔薬であるキシロカイン(塩酸リドカイン)、メビカイン(メビバカイン塩酸塩)自体が抗不整脈薬なため、あらかじめ投与されているアミオダロンなどの抗不整脈薬の作用を増強してしまうことがあり、過度の心機能の低下を起こしやすくなります。心電図でのモニターは必須です。心機能が低下し、著しい血圧低下が起こった場合は、まず下肢挙上、乳酸リンゲル液などの急速な静脈投与を行い血圧を維持できるか確認します。血圧がさらに下がり続けるようであれば、エピネフリンなど作用が分かりやすい薬剤を患者様のモニタリングを行いながら少量ずつ投与していきます。

血圧は低くなりすぎると、自動血圧計では測定不可になることがありますので聴診による血圧測定に切り替えます。

②観血処置時の止血が問題になりますが、基本的に、ワルファリンはやめずに、緊密な縫合や止血のためのシーネ(入れ歯の様なもの)を事前に作成しておき対処することになります。ただし、PT-INRが3.0近くでコントロールされている患者様の場合止血に難渋することがありますので、処方医の先生との連携が必要になります。

③歯科治療に伴う菌血症問題。心疾患の場合、感染性の心内膜炎などを起こすとさらに致死的な状況になることがあるため、菌血症のリスクの高い処置、手術前の抗菌剤の投与は必須です。歯周病患者は、歯みがきなどでも日常的に菌血症を起こしていますので、血小板の凝集がおこり、血栓ができやすくなっています。歯周炎は、放置しておくと全身的にろくなことがありません。

④重症度の判定(自院の能力でどこまでの治療が安全にできるかの線引き)。担当循環器の先生との連携、情報提供をもとに、BNPなども一つの目安にしていきます。原田歯科では、BNPが200以下が一つの基準と考えています。(歯科で、治療安全に関してBNPの目安を著したものをあまり見たことがないので、エビデンスがあるものではありません。)

また、BNPは検体の取扱が繊細なため、当院では心不全の病態把握ためには、BNPでなく他の生化学の項目と同時に検査が可能で、保存検体での測定が可能なNT-proBNPで血液検査を行っています。この検査は、慢性心不全の病態を数値で判断できるため心疾患の患者様の重症度を判断するのに有用な指標です。

⑤どれだけ痛みの少ないストレスを与えない治療ができるか?これは、DCMの患者様でなくても、当然のことですが実はなかなか知恵やテクニックがいります。おそらく1番大切なことです。

⑥治療時の姿勢(座位か、臥位でも問題ないか?)。臥位は上半身にうっ血を起こしやすくするため、基本的に座位で行います。(DCMは基本的にうっ血性の心不全を起こしているため。)

⑦酸素化(治療時に充分な酸素を供給できるように、鼻カニューレによる酸素吸入)。歯科治療によるストレスや、恐怖、痛みは、心筋により多くの酸素を必要とさせるため、相対的に低酸素症を引き起こします。低酸素症は、高血圧症、不整脈を誘発しますので、とにかく酸素吸入はためらわずに行います。

⑦静脈路の確保と鎮静の必要性の有無。ストレスが多い治療の場合、支障がなければ、静脈路は確保しておいたほうがよいと思います。鎮静も患者様の性格、事情にもよりますが、酸素吸入を同時に行える笑気吸入鎮静法を行ったほうが安全に治療を行えます。鎮静前から酸素は入れながら、循環血液量が増えない様に輸液量は控えめにして、術前にしっかりトイレにいって頂くようにします。鎮静時は、心電図のモニタリングは必須。

⑧かならずモニタリングを行う。これをしないと、患者様がいまどうなっているか分かりません。原田歯科では、DCMに限らず有病者の患者様(もしくはその疑いのある患者様)に局所麻酔を行うときは、基本的にモニタリングを行います。

⑨無理のない歯科治療の計画と提案。患者様の要望に応じつつ、なるべくリスクの少ない方法を考え、無理の多い、逃げ場のない治療を行わないことがとても大切だと思います。満足しているのは、歯科医だけで、あまり患者様には感謝されていないことが意外とあるように思います。誰のために治療をしているのか分からなくなります。

⑩埋め込み式除細動器装着の患者様の場合、そのことを把握しておかないと心室細動(VF)などのときに、AEDもしくは手動の除細動器を不適切に使用してしまう可能性があります。また、高周波電流を使用する電気メス(止血に使用します。)の使用は極力避けます。圧迫や、縫合、レーザーなどで止血可能であればそれらの手法で行います。)また、レート応答型心臓ペースメーカーを植え込んでいる場合、ECG(心電図)の電極をを使いインピーダンス法で呼吸数をモニタすると、ペースメーカーのセンサが過剰な反応をし、異常なレートをきざんでしまうことが報告されています。

当院でも、数名DCMの患者様がいらっしゃいます。病状はさまざまですが、リスクに高い歯科処置、手術は、複数の医師がいて充分な全身管理が充分できる環境で行ったほうがよいと思います。そういった場合は、逆紹介をして病院内の口腔外科にお願いしています。