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親知らず(埋伏智歯)の抜歯

埋伏智歯とは、萌出するスペースがないためにあごの骨の中に埋まってしまっている親知らず(智歯)のことを言います。通常親知らずは前から8番目の歯のことで、日本人の平均で24才頃に萌出してきます。
しかし、日本人は、歯に対して顎のサイズが小さい方が多いことや軟らかいものばかり噛む方が多いので歯の咬耗がおこらず、歯が萌出してくればくるほど歯並びがガタガタになってきます。歯並びはイス取りゲームのようなもので萌出の時期が早いものはよい位置を確保できますが、後に萌出してくる歯ほど萌出のためのスペースがないため転位や埋伏することになります。

歯並びが悪い場所は、汚れがたまりやすく虫歯や歯周炎など起こしやすいため大半の智歯は最終的に抜歯されてしまうことが多いように思います。埋伏智歯も完全に骨の中に埋まっていれば感染の経路がないためにトラブルが起こりにくいのでしょうが、中途半端に生えていると歯が口腔と顎骨を結ぶ感染の経路になるために炎症などが起こりやすくなります。

抜歯といってもカンシでつかむ程度で抜歯できるような簡単なものから、埋伏智歯のように外科処置を日常的に行っている歯科医または口腔外科医でなければ難しいものまで色々あります。埋伏智歯の抜歯は、ほとんどの外来で行われる口腔外科的手技を含んでいるために歯科では非常に重要な手術です。歯科では局所麻酔のみで行うことが多いですが、侵襲の大きさでいうと全身麻酔下で行っても不思議でないケースも少なからずあります。

原田歯科では以下のような流れで埋伏智歯の抜歯を行っています。なお、この文章は当院で埋伏智歯の抜歯を予定されている患者様のための説明用の文書です。一般の方は、それを了解の上で読まれたほうがよいと思います。歯科医師により抜歯の手法はかなり違いがあります。

①診査
これがとても大切です。患者様の全身状態(既往歴、現病歴、家族歴など)の把握、服薬のチェック、以前抜歯や麻酔で不快事項がなかったか充分な問診を行います。埋伏智歯の抜歯では歯肉を切開、剥離して骨の切削などを行い、多量の血管収縮剤であるエピネフリンを含む局所麻酔薬(塩酸リドカイン)を注射しますので循環動態に結構大きな影響を及ぼします。切開、剥離、骨の開削を意識下で行いますので、不安や恐怖心による神経性ショックや緊急性高血圧症(鎮静なしでは恐怖症の方でなくとも通常収縮期血圧はでは30-40mmHg程度は上昇します。)、過呼吸などを起こすことが多く、静脈内鎮静などが必要な場合があります。日本人は我慢強いので意識下で埋伏智歯の抜歯を行うことが多いですが、米国人などは鎮静しないと抜歯ができない人が多くいます。血圧、心拍、必要に応じて心電図などで循環の異常は必ずチェックするようにします。また、過去3ヶ月以内の血液検査などで肝機能、腎機能、糖尿、凝固、血算などの異常もないかもきちんと検査しておくべきです。検査データがなければ、必ず血液検査を行います。
埋伏智歯の場合、パノラマ断層撮影という大まかに埋伏智歯の状態を把握できるX線撮影を行い、当院ではほとんどの場合CT撮影を行います。特にCT撮影はとても大切で歯根の詳細な分岐や実際のサイズが0.1ミリ単位で分かるため安全な歯の分割や骨の切削ができます。
歯周炎の検査も術後の感染の重要なリスクになるため、かならず行います。歯周炎がひどい場合は、事前に抗生剤などで歯周病菌を減らしておきます。
心疾患やステント留置、人工弁の手術を受けた方などは、感染性の心内膜炎などを起こさないようにガイドラインに沿った抗生剤の術前投与や、抗血栓療法を受けワーファリンなどを服用している患者様の場合、術前および術直前にPT-INRなどを測定し安全に抜歯ができる範囲に収まっているか必ず確認します。

②採血、必要に応じて静脈路の確保
抜歯当日、埋伏智歯の抜歯の症例は、ドライソケットの発生を防ぐため採血をし事前に抜歯したスペースに補填するCGF(全血を遠心分離して得られる血小板を多く含むフィブリンの塊)を作成しておきます。原田歯科では、3年以上前から埋伏智歯の抜歯全症例にCGFを使っていますが、CGFが脱落したケースを除いてドライソケットを起こしたケースは1例もありません。CGFは、骨粗しょう症でビスホスホネート製剤を服用している患者様に起こる顎骨壊死に対しても有効なため、同剤を服用している患者様の抜歯の際にも必ず骨の露出を防ぐため行っています。CGFを使用すると露出した骨面にすばやく上皮化が起こるため治癒が良好になります。CGFは、採血して短時間遠心分離器にかけるだけで作成できるため、費用もかからず簡単に作成できます。こういった費用対効果の高いテクニックは保険診療に取り入れてほしいと思います。歯科は保険診療で採算が取れないことが多いので、やたらインプラントや審美といった自費治療が花形になってしまいますが、次にあげるモニタリングや静脈内鎮静、CGFのような治療の質を高める手法も評価してほしいといつも思います。循環器が不調な患者様や鎮静が必要そうな患者様は、留置針で採血をし、そのまま点滴を採っておきます。

③モニタリングの装着
心拍数、サーチュレーション(非観血的動脈内飽和酸素濃度)、必要に応じてモニタ心電図で必ずモニタリングを行います。高血圧症などの循環に問題がある場合などは酸素吸入は行ったほうが血圧の上昇を押さえることができ、心負担を少なくできるため積極的に行います。抜歯に不安や恐怖心がある場合は、笑気吸入鎮静法や静脈内鎮静を行ないます。

④酸素吸入、笑気吸入鎮静法、静脈内鎮静法
酸素吸入は血圧の上昇や不整脈の予防のため、鎮静は内因性のエピネフリンなどのストレスホルモンの分泌を押さえ不快事項の予防のために行います。

⑤局所麻酔
意識下の抜歯で、一番大事なのがこれです。痛みがあると患者様がぐちゃぐちゃになってしまい抜歯どころではありません。歯科では、血管収縮剤(エピネフリン)入りのカートリッジ式の局所麻酔を使いますがカートリッジ1本に22.5μgのエピネフリン、36mgの塩酸リドカインが含まれています。歯科麻酔の指針で健常者でエピネフリンは100μg程度、心疾患患者では20-40μg程度に抑えるといった目安がありますが、一番大切なことはしっかりと麻酔を効かすことです。問題なのは血中のエピネフリンの濃度ですが、これは外因性(注射などで投与されるもの)と内因性(痛みなどにより副腎から分泌されるもの)の総和のため少なめに麻酔をして、痛みがとめられないケースが最悪です。外因性のものより内因性のものの影響が多く、ちなみに安静時副腎分泌量は7μg/分、ストレス時280μg/分、局所麻酔下(エピ入りリドカイン1.8ml注入)1μg とされています。
また通常はあまり問題が出ませんが、塩酸リドカインはクラスⅠbに分類される抗不整脈薬なので、すでに抗不整脈薬を服用している患者様の場合心機能を落としやすくしてしまいます。ただ、エピ入りのものの場合、リドカインが注射部位に長時間留まるために全身の血行に移行するスピードが遅く問題が起こらないように思います。(ただし、血管に誤注入した場合は、違います。)逆に、血管収縮剤なしのものだと全身への局麻剤の拡散が早く心機能への影響が出やすいように思えます。ちなみに、抗不整脈薬としては、リドカインは静注で50-100mg投与します。(10-20分程度で効果が切れます。)
局所麻酔はほとんど痛みなくできると思いますが、痛みに敏感な方の場合表面麻酔を使用するとより痛みを感じにくくできます。

⑥切開、剥離、骨の開削
充分に麻酔が効いたら、必要に応じた切開を加え、骨膜ごと歯肉を丁寧に剥離します。剥離すると智歯と骨がはっきり見えるようになりますので、歯の一番膨らんでいる部位が見える程度まで骨を開削して抜歯するのに必要な骨の出口を造ります。視野が取りにくい部位は多めに開削し、視野がとりやすく歯の分割が行いやすい部位は開削しすぎないようにします。この時点で、出血がダラダラ出てくるようであれば、局麻を追加してほとんど出血しないようにします。

⑤歯の分割
基本的に一塊で抜歯できることは少ないので、通常は3つぐらいに歯を分割します。その際に、歯の周囲の神経(下歯槽神経、舌神経)を損傷しないように気をつけたり、歯を削る器具で、歯肉などの軟組織を巻き込んで損傷しないように気をつけます。下歯槽神経に関してはCTでチェックしているのでよほどリスキーなケース以外は神経損傷はほぼ間違いなく回避できます。舌神経に関しては、下顎智歯の舌側間近を走行していますが、切開線を工夫すれば、歯の分割の際、盲目的な手技で舌側の骨を穿孔するなどしなければ普通は起こりません。
また、分割しても抜けにくい場合は、歯根などに溝を掘り骨のしっかりした部分を支点に引っ張り上げれば大半は抜けてしまいます。それで抜けてこなければ、さらに分割を繰り返していきます。まれに、硬い皮質骨だけに囲まれている歯根などは、顎骨ごと削り取らなければ抜けないことがあります。そのような場合は、そのようにするか、歯根だけ削り取ってしまうか、問題が出ないように歯根の形を整え閉鎖するかということになります。
埋伏智歯であろうが、基本的には骨に埋まっているだけなので囲んでいる骨をすべてとってしまえば抜けてしまいますが、すべて削り取ってしまうと顎骨自体がほとんどなくなってしまうようなケースでは、そんなことはできませんし、骨折のリスクも増えます。抜歯後そこがひどく陥没して隣接する歯がしみてきて神経を取るようになったり、義歯が入れにくくなったり、清掃性が落ちてしまったりしないようになるべく骨は削り過ぎないようにします。

⑥骨鋭縁の削除、充分な洗浄
抜歯が終わったら、骨の鋭縁を丸めます。鋭縁が残っていると後で歯肉を突き破ってくることがあり、口内炎などを起こしやすくなります。ほうっておくとそのうち壊死を起こし腐骨となり脱落してきます。歯の切削片などが残ると腫れてくることがあるので、よく洗浄します。

⑦CGFの填入、縫合
準備しておいたCGFを抜いた部位に入れ、縫合を完成させます。少しゆるめに縫合しておいたほうが多少腫れは少なくできます。

⑧止血
縫合するとほとんど出血することはありませんが、抗血栓療法を受けている患者様の場合は、長時間の圧迫止血、カルトスタットなどガーゼ状の止血剤を抜歯した部位に縫いこんでしまうタイオーバー、止血用シーネをつくるなど特別なことが必要になることがあります。健常者の場合は、うがいやおしゃべりや食事などで切開した部位が引っ張られ出血が止まりにくいことがあります。出血が止まりにくいと治癒も悪いため抜歯当日のすごし方でずいぶんと経過が変わってきます。うがいをしないように説明した直後に、思いっきりうがいをする患者様もいるのでしつこく説明をします。切開に関しても、切開部位が可動部に設定されていると不快事項が多くなるので、そのあたりは歯科医の技量もあるのでしょう。止血に不安がある患者様の場合は、当日止血の確認の電話をしたり、再出血が起こった場合には、緊急用の携帯電話に連絡して頂くようにしています。

⑨経過観察、抜糸。
できれば翌日に、抜歯部位の異常がないか、縫合糸が周囲の粘膜を傷つけていないか、神経損傷による口唇や舌の知覚異常がないかチェックします。以前は、1週間後の抜糸だけの再診にしていたのですが、やはり翌日に診せていただいたほうが、意外と細かな点の修正もできるため、来院が支障がない患者様には翌日または直近に見せて頂くことにしています。
抜糸は、通常1週間前後に行いますが、汚れのつきにくいソフトナイロンまたはテフロンの糸ですので多少前後しても大きな問題はありません。
抜歯後は、先取り鎮痛、CGFなどを行っているため、強い自発痛は出ないと思いますが、腫れが強く出ることがあります。ただし、1週間程度で目立たなくなることがほとんどです。

⑩その後
抜歯後、腫れが取れてくると傷の輪郭がはっきりして穴が開いたようになりますが、CGFを使用すると上皮化が早く起こるため、1ヶ月程度で傷は気にならなくなります。ただ、治癒には3ヶ月ぐらいはかかると思っていたほうがよいです。

一連の流れはご説明しましたが、もし不明な点や不安なことがあれば是非歯科医や歯科衛生士などのスタッフにお話ください。「痛みは最悪のトラブルファクター」と考えていますので、抜歯の際には痛みないように細心の注意を払っています。その点は安心していらしてください。